著者のコラム一覧
田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。 日刊ゲンダイDIGITALで連載「名門校のトリビア」を書籍化した「名門校の真実」が好評発売中。

学費を大幅減額できる「地域枠」は医学部生に有益?「年季奉公みたいな制度」と疑問の声も

公開日: 更新日:

 学費の自己負担が大幅に減額される医学部地域枠。医師不足に苦しむ都道府県が出資。医学部生を囲い込むために設けられた制度だ。地域枠で入学した学生には修学資金が自治体から貸与され、卒業後、特定の地域の指定された診療科で一定期間、従事すれば返済が免除される。

 私立、国公立問わず、数多くの大学で実施され、23年度入試は医学部定員9384人中961人が地域枠で10.2%を占めた。学費が実質ゼロになるケースも多く、「カネがなくても医学部に行ける」といったうたい文句でマスコミにもたびたび取り上げられている。

「医学部地域枠はあくまでも医師の偏在を解消するための制度」と話すのは厚生労働省医政局の職員。その制度を大きく揺るがしかねない事件が起きたのは4年前。地域枠の卒業生5人が、出資した自治体が許可していないにもかかわらず、初期研修先として別の都県に入職してしまったのだ。

「研修医の横取りです。地域枠の学生を採用した病院には厚労省からの補助金を減額するなどの処分が下されました」

 前出の厚労省職員は当時を振り返り、腹立たしげに次のように続ける。

「地域枠の医学生をそのまま、自分のところの付属病院に入れてしまった大学があったのです」

■地域枠の医学生を“横取り”した東京医科大

 私大中堅の東京医科大である。茨城県の地域枠で入学した学生を卒業後に東京・西新宿にある東京医科大学病院で採用したのだ。厚労省職員は「ここまでコンプライアンスの欠如した大学もめずらしい」と憤る。

 近年は入試で文部科学省幹部の息子に有利になるように加点したり、女子と浪人に対する得点引き下げなど不正が次々に発覚。同大元講師の外科医は母校の一連の不祥事に「情けないかぎり」と嘆く。ただ、地域枠問題については東京医大のルール違反は論外としながらも「年季奉公のような制度にも問題がある」と疑問を呈する。

 たとえば山梨県の場合、国立の山梨大に35人、私大に若干名の地域枠を設け、学生1人当たり毎月13万円、在学中の6年間で計936万円を貸与する。卒業後15年間のうち9年間、知事の指定する県内の公立病院などに勤務するのが返済免除の条件となっている。

 この年季奉公から逃れるには貸与された額を返済すれば済むというわけではない。山梨県の場合はさらに違約金まで設定しているのだ。卒業後すぐに離脱すると、842万円の違約金が生じ、貸与額と合わせ1778万円を一括返済しなければならない。その時期によって最大2340万円まで返済額が跳ね上がる。

「結局、大半の医師が上限まで働かされることになる。こうした病院では元々、医師が不足していて指導する先生も少なく、腕が磨けないとの悲鳴も聞こえてくる」(前出の東京医大元講師)

 なお、東京医大は22年度入試まで山梨県の地域枠を設けていたが、23年度から廃止している。



◆田中幾太郎の著書「名門校の真実」」(1540円)日刊現代から好評発売中!

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 暮らしのアクセスランキング

  1. 1

    高市首相が今上陛下を「こんじょうへいか」と呼んだのは「不敬」なのか?

  2. 2

    税収が前年度比「9兆円増」の異様とカラクリ…恩恵なく生活が苦しい庶民から飛び交う怨嗟の声

  3. 3

    スマホ注文の「モバイルオーダー」はなぜ普及しないのか…マックやスタバでレジに行列ができる理由

  4. 4

    日本の女性差別を国連も憂慮…高市首相は女性のはずなのに、なぜ女性・女系天皇に反対なのか

  5. 5

    意外と批判は少数?「めちゃウザい」「お前イエローや!」本田圭佑の“言いたい放題W杯解説”はなぜウケた?

  1. 6

    小室圭氏実家はポリスボックスで過去に物議…旧宮家の養子案「皇族になれる資格を持つ人間」が増えたら危惧されること

  2. 7

    なぜ女性天皇はダメなのか?旧宮家の養子案そのものが、女性・女系天皇を阻止するために生まれたものだ

  3. 8

    高市首相の“悲願”消費税減税「2年限定」の落とし穴 2029年は増税ショックと物価高のWパンチが庶民生活を襲う

  4. 9

    オランダ訪問の晩餐会での天皇のスピーチと雅子皇后…"旧宮家"に求められる「皇室外交」と担い手の難しさ

  5. 10

    今や65歳以上の4人に1人が働く社会に…再雇用は当たり前、社員と同一労働、同一賃金への見直しも進む

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    山田涼介が「令和最強アイドル」と評されるワケ…主演ドラマ「一次元の挿し木」は玉森裕太を三歩リード

  2. 2

    沈黙貫く橋本愛vs佐藤二朗「週刊新潮」で反論の泥沼化…SNS連投で"自滅"を心配する声も

  3. 3

    『ひよっこ』再放送記念、神回「ビートルズがやって来る」再録

  4. 4

    骨折で入院中ですが…ブラジルに惜敗した森保Jを巡る一部炎上報道で心が痛い

  5. 5

    萩本欽一〈24〉相方の坂上二郎さんとは「遊ばない・食事しない・夢を語らない」を徹底した事情

  1. 6

    男子バスケ日本代表に激震、ホーバス監督“解任”の真相…過去には八村塁と確執も 

  2. 7

    孤立深まる高市首相…国会10日ぶり正常化でも続く“包囲網” 与党内からも反発の声噴出の自業自得

  3. 8

    佐藤二朗騒動の余波!「福田組」の長澤まさみへの“ハラスメント”舞台挨拶の悪ノリ動画が再注目…女性視聴者は嫌悪

  4. 9

    趣里が7月期テレ朝ドラマで出産後初主演 続く水谷家との「蜜月」で三山凌輝にも復活説

  5. 10

    村上誠一郎前総務相が高市政権バッサリ!「これが本当に保守政治なのか」…突きつけた自民「立党宣言」との乖離