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内田正治タクシードライバー

1951年埼玉県生まれ。大学卒業後、家業の日用品、雑貨の卸会社の専務に。しかし、50歳のときに会社は倒産。妻とも離婚。両親を養うためにタクシードライバーに。1日300キロ走行の日々がはじまった。「タクシードライバーぐるぐる日記」(三五館シンシャ)がベストセラーに。

(26)「グラッチェ」こそなかったが…ケーシー高峰さんは本物の名医のようだった

公開日: 更新日:

「○○ちゃんはまじめでいい子だね。ああいう子が売れてくれればいいね」

 ケーシーさんはテレビでのフランクな口調とは打って変わり、紳士的な口調で話していた。実際、ケーシーさんは日大医学部に入学し、一度は医者を志した人だが、まるで本物の名医のような雰囲気さえ漂わせていた。ケーシーさんの言うその“いい子”とは当時、下品な言動で注目されていた女性タレントで、私は好きになれなかったが、この話を聞いて、なんだか好感を持てるようになったものだ。

「運転手さん、こんな遠くの知らない場所まで、すまないね。気を付けてお帰りなさい」

 目的地に到着すると、得意の決まり文句「グラッチェ」こそなかったが、ケーシーさんは優しい言葉をかけてくれた。こうした芸能人との出会いは、タクシードライバーにとっては数少ない「役得」かもしれない。

 ただ、悲しいかな、当時すでに離婚していた私には、家に帰ってもそんな話を聞いて喜んでくれる人はいなかった。一緒に暮らす老母を除いて……。

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