なぜ“相手の不機嫌”が自分に伝染する? 人間関係の「トゲ」を生む目に見えない原因とは

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脳は見たことを「自分ごと」化する

 なぜ、1人の人間に起きたことが、こんなにも簡単に伝染してしまうのか──その謎を解き明かしたのが、1990年代半ばにイタリアで行われた興味深い研究だ。

 この画期的な発見をしたのは、アインシュタインを思わせるもじゃもじゃ白髪頭の研究者、ジャコモ・リゾラッティとその研究チームだ。いま、そのリゾラッティはノーベル賞候補として注目されている。

 長年にわたってサルの脳を調べていたリゾラッティは、ある実験の指揮を執ることになった。ものを持ち上げるなど、目的のある動作を制御する神経細胞が、どのように働いているかを調べる実験だ。具体的にいうと、サルが木の実やバナナを取るときに、脳のなかでどんな現象が起きるか確かめるというものだ。

 サルがその動作をすると、脳の特定の神経細胞のシグナルが記録される。研究者はそれを見て、脳内の様子を知ることができる。技術が進歩したおかげで、脳で起きていることがリアルタイムでわかるようになっていた。

 研究チームは、入念に準備した。2匹のサル(マカクザル)を用意して、脳内を映しだす機器を設置した。サルの手が届く場所に、木の実とバナナを置いた。いったいどんな結果になるだろう。研究者たちは、期待と好奇心に胸を躍らせた。このときはまだ、驚くべき発見をすることになるとは夢にも思わなかった。

 実験がはじまって、サルがバナナに手を伸ばしたとたん、さっそく脳の活動が記録され、画面に脳の画像が映しだされた。リゾラッティたちは、それを興味津々で見守った。

 ふと、1人の研究者が目の前にあったバナナを食べようと、1本手に取った。すぐ近くにいたサルが、それを見ていた。そのとき、研究者らは、機器の画面を見て目を疑った。

 画面に映っていたのは、サルがバナナを1本取ったときとまったく同じ画像だった。とはいえ、そのサルは、研究者がバナナを取るのを見ただけだ。

 研究者たちは考えた。ひょっとして機器に不具合が起きて、前の画像が映ったままなのかもしれない。なにせ起きるはずのないことが起きているのだから。研究チームは、機器をかたっぱしからチェックしたが、おかしなところは何も見つからなかった。

 バナナを食べた研究者が、もう1本食べようと、またバナナを手に取った。すると、画面にまた同じ画像が映った。

 研究者たちはその場に棒立ちになり、その画像を食い入るように見つめた。いったい何が起きているんだ? バナナを取ったのは人間なのに、なぜ画面にはサルが取ったときと同じ画像が映っているのか?

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