奈良の鹿愛護会が語った現場のリアル…「シカさんをいじめるな!」の裏に横たわっている大問題
子供の胸に角が4センチも刺さって救急搬送
──人が鹿から危害を加えられるケースも多いと聞きます。
「その通りです。特に今の時期、鹿が人に怪我をさせる事故は非常に多くなっています。それも、かすり傷のようなものではなく、突き飛ばされて大腿骨を骨折したり、側溝に落ちて脳しんとうを起こしたり……。怪我が原因で飛行機に乗れず、帰国が数カ月も延びてしまった方もいらっしゃいます。つい最近、救急搬送された子供は、角が胸に4センチも刺さっていたそうです。こんな例を挙げればキリがない。
ここのシカは人に慣れているとはいえ、まぎれもない野生動物です。にもかかわらず、多くの外国人観光客は奈良公園を『ふれあい動物園』のように考えていらっしゃる。『もちろん狂犬病のワクチンを打っているんでしょ?』なんて聞かれたこともあるくらいです。この認識のギャップが、深刻な事故を引き起こす最大の原因になっています」
──角、危ないですね。
「オスの角は、見た目以上に鋭利で、研がれた刃物のようです。事故を未然に防ぐため、我々は毎年この時期に角切りを行っており、今年はすでに400頭以上切りました。奈良公園内に生息するオスは約330頭ですから、いかに多くのオスがこの時期、山など外部からメスを求めて集まってきているかが分かります。こうした外部から来たオスは特に人慣れしておらず、より危険です。角を切られていない若いオスの『一本角』は特に鋭く、先ほどお話ししたお子さんの事故もこの一本角によるものでした」
──特に今の時期は事故が多いのはなぜですか。
「8月の終わりから12月頃までは、鹿の繁殖期、いわゆる『発情期』だからです。特にオスはメスをめぐって非常に神経質になっており、簡単に言えば常にイライラしている状態です。それがどこで爆発するか分からないため、不意打ちのような形で突然、攻撃されるケースもあります。ちなみに、子供の方が被害に遭いやすい。これはストレスが溜まっている状態でも、鹿にとって人間の大人は怖い存在です。そのため、蓄積した怒りの矛先がより弱くて小さな存在に向きやすいのです」