奈良の鹿愛護会が語った現場のリアル…「シカさんをいじめるな!」の裏に横たわっている大問題
気付かぬうちに「自分のメスに手を出す邪魔者」認定
──それにしても不意打ちは勘弁してもらいたい。
「少し語弊があったかもしれません。『何もしていないのに突然…』というのは人間からの視点で、本当は気付かないうちに地雷を踏んでいるケースが大半です。オスは自分のハーレム、つまりメスの群れを守ることに必死になっている。観光客の方は、どうしても可愛らしいメスや子鹿に注目してしまいますが、そのメスの群れを少し離れた場所から監視しているオスの存在に気づいていないことが多いのです。観光客がメスに近づいたり、鹿せんべいをあげたりする行為そのものが、オスには『自分のメスに手を出す邪魔者』と映ってしまうこともあるのです。オスがメスに向ける視線を遮らないか、メスをテリトリーから連れ出す行為をしていないか。我々人間が気をつけるだけで、『いきなり攻撃された!(実は過失がある)』なんていう事故はずいぶん減らせるはずです」
──人と鹿、双方の安全を守るには。
「やはり、『奈良の鹿は野生動物である』ということを、観光客一人ひとりに深く理解していただくことに尽きます。彼らはペットではありません。人に慣れているように見えても、その行動はすべて野生の本能に基づいています。顔を近づけたり、無防備に触るのは大変危険です。適切な距離感を保ち、彼らの生態を尊重することが、人と鹿、双方の安全を守る上で最も重要です。
また、鹿せんべい以外のパンやスナック菓子などを与えるのは絶対にやめてください。栄養バランスが崩れてしまうだけでなく、無責任な餌やりが鹿の個体数を過剰に増やし、公園内の草を食べ尽くして栄養状態を悪化させたり、餌を求めて街に出て交通事故に遭ったりと、結果的に彼らを不幸にしています」
──最後に、奈良公園を訪れる方々へのメッセージを。
「秋の奈良公園では、ぜひオスの挙動に注目してみてください。メスを巡るオス同士の駆け引きや、他のオスを威嚇する鳴き声など、野生動物ならではの迫力がある。かわいいメスを見ているよりもずっと興味深いです。ただし、日が暮れ始める夕方はオスの活動が活発になるので一層の注意が必要です。鹿の生態を正しく理解し、敬意を払うことで、奈良公園でしか味わえない、人と野生動物が共存する世界の素晴らしさを体験できるはずです」
(聞き手=杉田帆崇/日刊ゲンダイ)
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