それ“和牛”違いですよ! コントのような「おばさん」二人の会話に更年期の私が救われたわけ【日日更年期好日】

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コクハク

齟齬のある“和牛”問題

 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まった老化現象についてありのままに綴ります。第54話は「自分に都合がいいおばさんの会話」。

【日日更年期好日】

 年末が近づいてきた。この時期になると思い出す、ご婦人2人の会話がある。2年前の年末、私は明治通り沿いのスタバにいた。店内のテーブル席に座ってコーヒーを啜っていると、背後の席からご婦人の会話が聞こえてきた。推定年齢は2人とも60代後半。

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A「息子夫婦がね、あ、福岡に住んでいるんだけど、息子が誕生日だからお酒を送ったのよ」

B「まあ、喜んだでしょう」

A「あの夫婦、飲兵衛だからね。でもね、いやね、お礼も言ってこないのよ。だから私、電話しちゃったわ。そしたらもう飲んじゃいましたって」

B「…まあ」

 こんな普通の会話が繰り広げられていた。なんだろう、おばさんの会話はテンポもトーンも独特で面白い。自分もその軍勢に参画しているのは百も承知だけど、面白い会話が整理しているとかどうかと聞かれると、自信がない。で、会話の続き。当時、お笑いコンビ・和牛の解散が話題になっていた。相方の遅刻癖などに愛想を尽かしたのが、解散理由と言われている云々。

A「そういえばご存知? 和牛、解散するんですってよ。何でも水田さんとかいう人の遅刻が原因らしくてね。あんなに人気があったのに…遅刻なんかが理由でチャンスを失っちゃうなんてもったいないわよね」

 Bさん、Aさんの話している内容が掴めなかったのか、会話に一瞬の間が空く。ただ次の瞬間“和牛”のキーワードだけは分かったのか、自分なりの和牛語りが始まった。

B「ねえ、そんな遅刻で品評会に遅刻しちゃうなんて…もったいないわよねえ」

 2人の会話に齟齬が生じている。私も(…品評会?)と考え込んだが、解釈をするとどうもBさんは食べるほうの“和牛”だと思い込んでいるらしい。おそらく彼女の脳内では「生産者の怠惰によって、和牛の品評会に遅刻をしてしまって、売買するチャンスを失った」と情報が流れている。盛大な“和牛”違いだ。背後席が急に静かになったので、そっと様子を伺うと二人は向かい合って、静かにコーヒーを飲んでいた。

おばさんの会話は切り返しも早い

A「あ、そうそう。昨日、渋谷のフードショーに行ったんですけどね」

 Aさんは“和牛”違いの会話なんぞ、気にする素振りを見せず、次の会話へとコマを進めていた。その様子を見て笑いが止まらなくなってしまった。ここはスタバ。大笑いをするわけにもいかず、必死に声を殺して笑った。涙が出てしまった。この二人の会話から察してほしいのだが、おばさんの会話とは本当に自分たちに都合がいいようにしか話さない。多少の齟齬が生まれようと無視をして、どんどん会話を進めていく。このバーリトゥード方式こそ、おばさん像。

 最近、トイプードルで換算すると8歳くらいになった。人生の折り返し地点だ。更年期も収まらず日々、さまざまな症状を体に投げつけてくる。今年はどれほど医療費を使っただろうか。医療だけではなく、鍼などのリラクゼーションも入れると、メンテナンスにかかる費用を数えるのも恐ろしい。まあ70年式の自動車なんて言ったらもう中古車どころか、マニアか歴史博物館に飾られているような古さだから、それなりに金はかかって当然か。ただ錆びていく自分の体を考えると不安がよぎる。

 そんな時は2年前の明治通りで出会った、ご婦人二人の会話を思い出すようにしている。そのうち私も何もかも都合良く考えて、辻褄の合わない会話を友人と楽しめるようなランクに到達してやるぞ、と思っている。たまに当時のスタバに行くと「あの二人いないかな」と探すが、あれ以来遭遇していない。どうかお元気でいてほしい。そして言いたい「元・和牛の2人は元気ですよ」と。

(小林久乃/コラムニスト・編集者)

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