(21)住宅街にある名酒場
阪急神戸線の夙川駅から支線に乗り換えてひと駅目は、苦楽園口という駅だ。界隈は盛り場というより住宅街。欧風の2階建ての建物の2階に「BAR THE TIME」というバーがある。マスターの宇座忠男さんの前で酒を飲んだのは一昨年のことだった。
阪急の苦楽園口から徒歩数分の一軒のバーに闖入した私は、異物にならぬように、などと考える暇もなく、宇座マスターの笑顔と美しい手技に抱き込まれていた。
ジンフィズではじめ、宇座さん考案の、『白鷹』をベースにしたオリジナルモヒート、ウォッカマティーニ、サントリー角の復刻版のハイボールなど、次々に飲むうち、当時、ちょうど還暦だった私は夢み心地になった。20歳年上の宇座マスターに、目の前で仕事をしていただいていることに、のぼせたのである。今の東京にはいないバーテンダーだと思った。
たいへん残念なことに、その年の暮れをもって店を閉じるという話を聞いた。そして、何か月か経った後で、たいへん幸せなことに、店が再開すると聞いた。
神戸の「サヴォイオマージュ」のマスター、森崎和哉さんが店を継承したのだ。それ以来、宇座さんは週に2回、森崎さんと一緒にカウンターに入っているという。
ずいぶんバーを巡ってきたが、宇座さんほどきれいなバーテンダーは、あまり知らない。そして、森崎さんほど愉快なバーテンダーも他に知らない。おふたりとも、日本を代表するバーテンダーだ。
苦楽園口の店は、桜が美しい夙川沿いに建っている。

















