著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

「ブックスTangerina」(たまプラーザ)店に圧倒的共感を覚える人たちが訪れる文化拠点

公開日: 更新日:

ブックスTangerina(たまプラーザ)

 目立つ看板もないのに、吸い寄せられてくる人、多し。オープンしてもうすぐ1年になる。

「店名は、子どもの頃に読んだ『エルマーのぼうけん』に出てくる“みかん島”から付けました」と店主の𠮷沢朗(あきら)さんに聞いて、私もその本好きだった。そうそう、エルマーはみかん島に行っていた……。

 と、のっけから私感を失礼。店名に自分と同じ匂いを感じて喜んじゃった。20坪に1500タイトルが並ぶこの店に吸い寄せられるのも、目にする幾冊かの本から、店に圧倒的共感を覚える人たちなのだ。平台に「資本主義と、生きていく。」「服捨て 自分を解き放つメソッド」「ロヒンギャ危機」「生殖記」、壁面に「山の時刻」「大工日記」「感情労働の未来」が面陳列された光景を見て、そう思った。

 どんなふうに選書を?

「結構“自分カラー”ですね」

店主は海外ドキュメンタリー番組の元プロデューサー

 𠮷沢さんは、海外ドキュメンタリー番組を担当してきた元NHKプロデューサー。「仕事に必要な本」と、毎夜ページを開く「仕事に不要な本」をあまた読んできた。もっと言えば、大学時代の「INAXブックギャラリー」でのバイトに端を発する多分野の読書派。

 あ、なるほど。文芸棚では、石牟礼道子、小川洋子、池澤夏樹、小川糸、高村薫、安部公房をとりわけ多読してこられたと拝察。その向こう側では、建築、庭園、宇宙といったカテゴリーもお好きと分かる──。

「2月がミャンマーのクーデターから5年だったので、関係本の棚を作り、3月にイベントもしました」「NHK時代と同じことをやっているのかもしれません」が、何をか言わんや。本を媒介に、𠮷沢さんが社会にコミットし続ける場と見た。

「私と話すことを目的にご高齢者が来店されたり、ミュージシャンの方からお申し出があって、店内でミニライブを開いたり」とも。喫茶9席。読書会もたびたびの文化拠点となっている。

 この日は、常連の書評家、東えりかさんをゲストに迎えたトーク「アガサ・クリスティーとその時代」が開催され、24人が参加。クリスティー作品の全体像、系列、自伝などについて熱く語られた後、参加者たちも負けず劣らず熱心に質問していたのが印象に残った。

横浜市青葉区美しが丘1-10-13 USビル3階/℡090-1090-3905/東急田園都市線たまプラーザ駅北口から徒歩4分/普段は平日午前11時半~午後7時半、土日祝日午前10時半~午後6時半。水曜定休。GW中は5月2~6日午前10時半~午後6時半、5月7日休み

ウチの推し本

「ボクサー」ハサン・ムーサヴィー作 愛甲恵子訳

「おすすめには、いつも平和へのメッセージのある本を挙げますが、この本もそう。力や武力がテーマのイランの絵本です。ボクサーが主人公で、力とは何のためにあるのか。むやみに使うものじゃないと。色鮮やかで美しい絵も魅力あります。今の時勢だから読んでほしいですね」

 ブラチスラバ世界絵本原画展グランプリ受賞作の邦訳。

(トップスタジオHR 1980円)

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