(22)ウイスキー造りの夢
小規模の蒸溜所で造られるクラフトウイスキーが人気を集めている。蒸溜所は現在、日本各地に100以上もあるというが、その先頭を走るのは、埼玉県秩父にあるベンチャーウイスキー秩父蒸溜所だと思う。主力ブランドはイチローズモルト。日ごろ、バーに出入りする人なら名前を聞いたことがあるだろう。
同社の設立は2004年。創業者は肥土伊知郎氏だ。実家は造り酒屋で、肥土氏はサントリーに勤務した後、経営難だった父の会社に参加したが、会社は人手に渡ることになった。そのとき、肥土さんの父が、日本酒や焼酎の製造の傍らで造っていたウイスキーの原酒が残された。肥土氏は、この原酒を受け継ぐことが自分の使命だと思った。
父が残したウイスキーの原酒をブレンドして商品化し、ウイスキーの製造業者として産声をあげたのが2004年のことで、2007年には埼玉県秩父に蒸溜所を完成させた。そして2008年、最初の原酒が樽に詰められた。
その年、私は取材で現場に入って、小さな蒸溜所で造られた透明な原酒を見た。
「この酒が、30年ものになるのを見届けたいですね」
肥土さんと私は、同世代。当時、私が45歳、肥土さんは43歳だったと記憶する。このとき滴った最初の一滴が、樽の中で眠り、熟成していき、12年以上の熟成期間を経たものだけをブレンドすると、12年もののシングルモルトができあがる。単一の樽から瓶詰する場合は、シングルカスクと呼ぶことになる。私が言った30年ものとは、この熟成期間において30年を経た原酒を意味する。つまり、私が75歳、肥土さんが73歳になってはじめて口にすることができるわけだ。
















