小林節
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小林節慶応大名誉教授

1949年生まれ。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。米ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。14年の安保関連法制の国会審議の際、衆院憲法調査査会で「集団的自衛権の行使は違憲」と発言し、その後の国民的な反対運動の象徴的存在となる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。新著は竹田恒泰氏との共著「憲法の真髄」(ベスト新著) 5月27日新刊発売「『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)

森喜朗元首相が発言「ロシアが負けることはない」という嘘

公開日: 更新日:

 森喜朗元首相の発言が、また物議を醸している。

 いわく、「(日本は)こんなにウクライナに力を入れてしまってよいのか。ロシアが負けることはまず考えられない」「ロシアのプーチン大統領だけが批判され、(ウクライナの)ゼレンスキー大統領は何も叱られないのはどういうことか。ゼレンスキーは多くのウクライナ人たちを苦しめている」。

 まず、「ロシアが負けることは考えられない」と言うが、ロシアとウクライナが互角に戦争をしてロシアが負けることは確かに考えられない。しかし、今の問題は、「国際法に違反してウクライナに攻め込んできたロシア軍をウクライナ軍が国境まで押し返すことはあり得る」し、そうしなければ自由で民主的な国家が専制国家に征服される悪しき先例を許してしまう。だから、今、世界の大勢が協力してウクライナを支援しており、わが国もそれに参加しているのである。

 つまり、「ロシアが負ける」の意味であるが、それが、「ロシアが侵略に失敗する」という意味でなら、現に状況はそれに向かっているし、人道的観点から日本はそれを願い支援すべき立場にいるはずだ。

 また、「ゼレンスキーが多くのウクライナ人たちを苦しめている」という発言は、まさに「狂気の沙汰」である。国際法に違反して隣国に軍事侵攻してウクライナ国民に地獄の苦しみを与えているのはロシアのプーチン大統領である。これは世界周知の事実である。だから、プーチン大統領が撤兵を決めさえすればウクライナ国民は今の苦しみから解放される。それに対してゼレンスキー大統領は、立場上、国際法に照らして、民族の誇りを託されて抗戦を指揮しているだけの立場である。

 プーチン大統領は、侵攻の理由として、NATOが東方に進出しないという約束を破ったと語った。しかし、第2次大戦末期の日ソ中立条約の一方的破棄に論及するまでもなく、国際関係における約束違反など珍しくもない。重要な点は、だからといって軍事侵攻を始めてしまったらそれは国連憲章、不戦条約等の国際法に違反してしまう。だから、「ロシアが悪い」という前提は譲りようがない。



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『人権』がわからない政治家たち」(日刊現代・講談社 1430円)

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