松山マスターズVの裏側 コーチとギア担当者が新加入し支援

公開日: 更新日:

【マスターズ】最終日

 日本人男子初のメジャー優勝に向けて松山英樹(29)は昨年から着々と準備を進めていた。

 その一つがコーチだ。

 これまで米ツアーの著名なコーチにアドバイスを求めることはあっても、特定のコーチに指導を受けることはなかった。「自分のスイングを始動からフィニッシュまで100分割でき、その一コマ一コマをすべて理解して説明できる」(関係者)というぐらいスイングオタクだ。だから、コーチをつけなくても、自分で考えてスイングづくりに取り組んできた。

 しかし、米ツアー本格参戦4年目の2017年8月の「WGCブリヂストン招待」で米ツアー5勝目を挙げてから、勝てない日々が続いた。

 自分だけで理想のスイングを追い求めることに限界を感じ、メジャータイトル取りにコーチの重要性も感じていた。

 昨年11月、女子プロの河本結を指導する目沢秀憲(30)と出会い、初めてコーチ契約を結んだ。

 日大ゴルフ部出身の目沢氏は米国で、日本に数人しかいないレッスンプロTPI資格(レベル3)を取得。得意のデータ分析と選手の話をじっくり聞く方針に松山は信頼を寄せた。

「自分の考えが正しい」というトッププロとしてのプライドを持つ松山は、同時に完璧主義者で頑固な一面もある。自分のミスを許せないことで心の浮き沈みが激しくなり、プレーに悪影響を及ぼしていた。

 17年ブリヂストン招待優勝の翌週に行われた全米プロ選手権の時だ。最終日に一時トップに立ちメジャータイトルに近づいたが同組のJ・トーマスに惜敗。5位に終わり、人目もはばからずに号泣したのは心の弱さの表れでもあった。

 あれから4年。10度目のマスターズで3日目に単独トップに立った松山はこう言った。

「3日間はあまり(心に)波を立てることなく、怒らずにできた。明日もそういうことが大事になる。それができればチャンスがある」

 松山にメンタルトレーナーはいない。目沢コーチの話を聞いたり、自分の考えを素直に語ることで、心に変化が起きたと考えられる。ミスショットにいら立つことがなくなったのは、現状を受け入れ、気持ちを切り替える術を無意識のうちに身につけて、それが悲願のマスターズ勝利に導いたといえる。

■ライバルメーカーのクラブ調整スタッフを引き抜き

 2つ目はゴルフメーカーの強力なバックアップだ。

 松山はスリクソンブランドの住友ゴム工業(ダンロップ)と契約しているが、ドライバーに関してはこれまでテーラーメイド、キャロウェイ、ピンと外国ブランドのドライバーを手にして戦っていた。

 ヘッド形状に神経質で、アドレス時の見た目を重要視する。メーカーがスリクソンの新作ドライバーを持参しても、ボールを打つどころか、アドレスからヘッドを動かした時に「ソールが芝にこすれる感じが嫌」と使わなかったこともある。

 しかし、今の松山はスリクソンドライバーを手にして、タフなオーガスタ・ナショナルGCを制した。

 住友ゴム工業は、「もっと飛ばしたい」という松山の要求を聞き入れてクラブ開発に取り組み、実はライバルのテーラーメイド社からクラブ調整スタッフをヘッドハンティングし、松山のギア担当につけたほどだ。

 新たなスタッフが松山のサポートチームに加わり、それが世界のトッププロたちがスコアメークに苦労する大舞台の最終日に崩れないゴルフを支えた。

低迷する男子ツアーに追い風、ゴルフブームの再来も

 松山のメジャー優勝は日本のゴルフ界には明るい材料となる。

 低迷する男子ツアーも注目されるチャンスだ。

 それは渋野日向子(22)がメジャーの2019年全英女子オープンに勝った後の国内女子ツアーを見ればよくわかる。

 渋野が全英から帰国してから国内13試合に出場し、観客動員数は前年比7万9482人も増えたのだ。

 10月の日本女子オープンは前年より2万663人増の4日間4万6165人。

 9月の日本女子プロ選手権も前年より1万5781人増の同3万5719人と、会場にはメジャーチャンピオンのプレーを一目見たいとギャラリーが殺到した。

 松山は米ツアーが主戦場のため国内ツアー出場試合は限られるが、16年大会に勝った日本オープンや、スポンサー契約を結ぶダンロップフェニックスに出場すれば多くのゴルフファンが押し寄せることになる。

 さらに、コロナ禍の現在は、「密になりにくい」との理由から、全国のゴルフ場に初心者の若者が急増している。

 松山のメジャー優勝に刺激を受けて、AON以来、ひさしぶりにゴルフブームが到来するかもしれない。今回のマスターズ優勝は、そんな日本ゴルフ界に希望の光をもたらすはずだ。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • ゴルフのアクセスランキング

  1. 1

    問題理事は軽い処分、小林浩美会長は無傷のバカらしさ…露呈した女子プロ協会の“身内びいき”と責任放棄

  2. 2

    国内女子「中堅クラス」の不甲斐なさ…トップ5の4人が消えプロ1、2年生の時代がやってくる

  3. 3

    前代未聞の壮絶不倫・当事者のひとりがまたも“謎の欠場”…関係者が語った「心配な変化」とは???

  4. 4

    “下半身醜聞”で出遅れ川﨑春花も狙える「全英女子への道」…出場権獲得条件は3通り

  5. 5

    女子プロ下半身醜聞“3股不倫”男性キャディーは「廃業」へ…9年の出禁処分が与える致命的ダメージ

  1. 6

    蝉川泰果が「海を渡る日」…史上最年少で国内メジャー3冠達成、松山英樹の後釜に名乗り

  2. 7

    JLPGA専務理事内定が人知れず“降格”に急転!背景に“不適切発言”疑惑と見え隠れする隠蔽体質

  3. 8

    男性キャディーが人気女子プロ3人と壮絶不倫!文春砲炸裂で関係者は「さらなる写真流出」に戦々恐々

  4. 9

    川﨑春花が2位発進「気持ちよく…」下半身醜聞を吹き飛ばす今季初優勝なるか

  5. 10

    下半身醜聞・小林夢果の「剛毛すぎる強心臓」…渦中にいながら師匠譲りの強メンタルで上位浮上

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?