遠藤航を徹底解剖 サッカー五輪代表OAで“チームの心臓”に

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遠藤航(シュツットガルト・MF・28歳)

 チームの心臓といわれるボランチに日本代表を長らく支えてきた長谷部誠(ドイツ1部フランクフルト)の後継者が見つかった。東京五輪に年齢制限なしのOA枠選手として、華々しい活躍が期待される遠藤航である。湘南時代から精力的に取材を続けてきたスポーツライター・藤江直人氏が素顔にズバリ迫った。

 ◇  ◇  ◇

 W杯予選史上で最多の14ゴールを奪い、森保ジャパンが快勝した2021年3月30日のモンゴル代表戦。後半19分に退いたDF吉田麻也から、キャプテンマークを引き継いだのは遠藤航だった。

 2月9日に28歳になったばかり。彼は、こんな言葉を残していた。

「自分の年齢もかなり上になってきたという感覚がある。その意味では、もっともっとチームを引っ張っていける存在にならないといけない」

 プロの第一歩を記した湘南で19歳にしてゲームキャプテンを拝命。16年リオ五輪でもU-23代表のキャプテンに指名された。森保ジャパンが船出した18年9月、不退転の決意を明かしている。

「そこに誰が食い込んでいくのかは、代表の大きなポイント。僕自身もそこで出たいと思って、ベルギーに行ったので」

 “そこ”とは――。

 18年ロシアW杯で代表チームからの引退を表明した長谷部が、10年間も担ったボランチだ。浦和からベルギーのシントトロイデンを経てシュツットガルトへ加入して2季目。ドイツ1部を代表するボランチへ成長を遂げた遠藤は、森保ジャパンでも代役の利かない存在となり、長谷部が身にまとったキャプテンシーをも発揮しつつある。

 22歳の遠藤が3度目のJ1へ臨んだ15年。0-0で迎えた浦和との開幕戦で、湘南がPKを獲得した前半36分だった。

「右に蹴るんだよな」

 キッカー役を務めた遠藤の耳元で囁いた浦和DF槙野智章は、その後も「右だよな、右」と揺さぶりをかけてきたが、遠藤には通じなかった。

「じゃあ、右に蹴ろうかなと。意外と落ち着いて決められましたね」

 驚くほど素直で、ずぶといほど肝が据わっている性格、と表現すればいいだろうか。遠藤にPKキッカーを任せ続けた理由を曺貴裁監督(現京都監督)はこう説明した。

「失敗しても、下を向かない選手を選びました」

■20歳の夏、突然のコンバートが転機に

 当時のポジションは3DFの右。2度目のJ1を戦った13年の夏までは真ん中でカバーリング力と危機察知能力を発揮していたが、曺監督は「遠藤の将来を考えて」とあえて右へ転向させた。

 新たに求められたのは1対1での強さとボールを前へ運ぶ推進力。前者は「デュエル」という言葉を介して遠藤の絶対的な武器と化し、ハリルホジッチ日本代表でA代表デビューを果たすきっかけにもなった。

 20歳の夏に経験した突然のコンバートを、遠藤は今でも“サッカー人生のターニングポイント”として位置付けている。

 20代前半の遠藤は、守備のオールラウンダーとしての自分を未来予想図の中に描いていた。

「すべてのプレーの平均値を上げたい。将来は海外でプレーしたいし、その時はボランチでもセンターバックでもポジションに応じていろいろな特長を、引き出しの中から出せる選手になりたい」

ブンデスリーガ「1対1」勝利数で1位に

 欧州を主戦場にして3季目。ベルギー1部からドイツ2部、そして1部へとステップアップした中、直近の目標をボランチのスペシャリストへ上方修正した。

「的確なポジショニングからしっかりとアプローチして、駆け引きをせずに1対1でシンプルに当たって勝つ。ファウルになってもイエローはもらわない、という点は自分でも評価しています」

 鍛え上げたフィジカルの強さが、ドイツ1部の猛者たちの脅威になって久しい。同時に現代サッカーでボランチに求められる要素も、貪欲に自分のものにしつつある。

「僕は守備的というイメージがあるかもしれないけど、今のサッカーは守備と攻撃を分けて考えない。奪ったボールをいかに早く前線へつなげるかなど、攻撃の部分でも関われる選手になりたい」

■ツバイカンプフ

 ドイツでは1対1(ツバイカンプフ)が重視され、ブンデスリーガ1部では勝利数がランキング化されている。第28節終了時で406勝をあげ、1位をキープする遠藤は「ツバイカンプフが数値化されるのは、評価される意味で個人的にありがたい。ボランチとして戦う以上は、そこの勝利数は増やしていきたい」と歓迎している。

■恩師・曺さん

 08年に湘南ユース入り。横浜市立南戸塚中学のGKを視察に訪れた当時ユース監督の曺氏が、ボールを蹴る直前に常に顔を上げている遠藤に興味を持ち、「フィジカルがつけば、この子は凄い選手になると思った」と出会った時の印象を振り返る。

■ロシアW杯

 4試合を通じて一度もピッチに立てずじまい。今は「中途半端に5分とか出るよりは、まったく出られない悔しさを次のW杯へぶつける。それはそれで、自分にとって良かったのかも」と受け止めている。

■市場価値急上昇

 シュツットガルトとの契約を、20年秋に24年6月まで延長した。中心選手と認められた証しであり、21年夏のオファーに備える措置でもある。独有力紙ビルトは「市場価値が400%増」と日本円で2億円から10億円へはね上がったと報じている。

■湘南をアシスト

 今季から湘南のオフィシャルクラブパートナーを務め、公式戦トレーニングウエアの胸部分に遠藤の名前(WATARUENDO)が入っている。経緯を含めて「何もコメントしないと決めているので。とにかく湘南を助けたかった」とコロナ禍での減収を余儀なくされた、古巣へのアシストと語るにとどめている。

■フルーツ王子

 19歳の時に結婚した高校の同級生・愛実さんとの間に3男1女の子宝に恵まれた遠藤は大のフルーツ好き。自ら「フルーツ王子とよく言われる」と明かす。シントトロイデンとシュツットガルトが、ともにフルーツどころという偶然に「フルーツの町を渡り歩いていると勝手に思っています」と屈託なく笑う。

▽遠藤航(えんどう・わたる) 1993年2月9日生まれ。横浜市出身。南戸塚中サッカー部から湘南ユース。17歳でJリーグデビュー。神奈川大に入学(後に中退)。湘南から2015年、浦和に完全移籍。18年にベルギー1部シントトロイデンに移籍。19年8月、当時ドイツ2部のシュツットガルトに移籍。1部昇格の原動力となった。15年7月、日本A代表に初招集。16年リオ五輪に主将として出場。18年ロシアW杯代表メンバー入り。19年10月のW杯予選モンゴル戦で代表初ゴール。身長178センチ、体重75キロ。利き足は右。

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