元川悦子
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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

年俸120円Jリーガーが格闘家に転身「日本沈没から救う」

公開日: 更新日:

「年俸120円Jリーガー」としてJ2・水戸とJ3・YS横浜で2018~2020年の3シーズン、プロのフィールドで戦った安彦考真(43=あびこ・たかまさ)が4月16日、小比類巻貴之氏が主催する格闘家イベント(東京・八芳園)で格闘家デビューを果たした。

 相手はタイガーマスク姿で登場した会社役員の佐々木司(38)。2分×2ラウンド制の試合でいきなり1Rからダウンを奪い、2Rでもさらにパンチを浴びせて2度のダウンに追い込み、見事なKO勝ち。

「格闘家転身は挑戦者で居続けるための手段」と強調した異端児が、新たなスタートを勝利で飾った。

「2021年の大晦日、さいたまスーパーアリーナで行われるRIZIN参戦を目指します」

 20年12月20日、シーズン最終戦後の引退セレモニーでの「格闘家宣言」から3カ月半。安彦がついにリングに立った。

Jリーガー時代から闘争心を前面に押し出すタイプではあったが、格闘家となった今はひと際、眼光が鋭くなって精悍さも増していた。

サッカー時代は175センチ・75キロがベストだった体をまず65キロまで落とし、そこから筋肉をつけながら70キロまで持っていく」という肉体改造の効果も奏功していたし、フットワークもスムーズだった。序盤から相手を押し込み、最後までスタミナも落ちず、デビュー戦KO勝ちを収めた。

「格闘技はウエルカムで受け入れてくれた」

「最初は『何言ってるんだ、コイツ』と思ったけど、果敢に攻めていく姿は最高にカッコ良かった。もともと頑張り屋だから、何をやっても最後までハードワークできる人ですよね」と初陣を見守ったYS横浜のシュタルフ悠紀リヒャルト監督も、感動するほどの理想的な一歩を踏み出したのだ。

 さすがに「『心の格闘家』ならいいけど、殴られるのは見てられない」と、格闘家転身に反対した両親は会場を訪れてはいなかったが、どこまでも息子のチャレンジャーとしての生き様を応援しているに違いない。

「40歳で仕事も金も全部捨ててJリーガーを目指した。でも『お前なんか来るな』と言われたし、(プロだった)3年間で1回も点を取れなかった。でも格闘技はウエルカムで受け入れてくれた」と試合後のインタビューで安彦は歓喜を爆発させた。

「RIZINは、お願いしても出られるもんじゃない。ぜひ僕に参加をお願いしてください」と大目標へのアピールも欠かさなかった。

「自分はサッカーよりも、格闘技の方が合ってるかもしれない」とも冗談交じりに話したが、ピッチ上とは異なるオーラを漂わせたのは確かだ。

元気な日本を取り戻したい一心

 こんな安彦の取り組みを「馬鹿げている」と見る人もいるかもしれない。が、本人は至って真剣だ。

「今の日本を見ていると、本当に『日本沈没』するんじゃないかと危機感を覚えてしょうがない。自分が身を挺して挑む姿を示すことで、少しでも意識が変わってくれればいい」と元気な日本を取り戻したい一心なのである。

 ワクチン供給の遅れもあってコロナ禍の終息が見えない中、少子化の流れにも歯止めは掛からず、学生の就職率も下がるなど、若者世代の苦しみは増えるばかりだ。彼らが希望を持って「前向きに生きられる国にしたい」というメッセージを込めて、安彦はリングの上で全身全霊を込めて戦い続ける。

「いい意味で僕も刺激を受けた。そういう力をリングで存分の発揮してほしい」というシュタルフ監督のエールも力にして、43歳の新格闘家は貪欲に前へ突き進んでいく。

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