巨人は足踏み、阪神首位キープのナゼ…「セ捕手初のMVP」中尾孝義氏に聞いた

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 プロ野球のセ・リーグは巨人阪神ヤクルトの3球団がデッドヒートを繰り広げている。残りは約30試合。どこがリーグ優勝を手にするか。

 中日で捕手として初めてセ・リーグMVPを獲得し、移籍した巨人、西武で日本シリーズに出場。引退後は阪神のスカウトも務めた中尾孝義氏(65)に、巨人、阪神の強みと弱み、日本ハムで暴力事件を起こした中田翔(32)を巨人が無償トレードで獲得し、物議を醸した問題について聞いた。(本文中の成績は17日現在)

■巨人足踏みの理由は3つ

 ――巨人が足踏みしている。

「一番の誤算はエース菅野(4勝6敗)の不調でしょう。今年は上体が開くのが早い。フィニッシュが浅く、手投げになっている。上体が腰の上に乗らずに回転できないから、いい時と比べて生きたボールがいかない。強い球がいっていない。球離れが早く、制球も甘いように見えます」

 ――菅野は今年、右肘を痛め、2年前には腰痛も発症している。

「野手は隠しながらプレーできるけど、投手は肘、肩、股関節など悪いところや気になるところがあると、投球に連動して全部悪くなることがある。『投手は繊細』というのはそういうところです」

 ――巨人は今、先発投手陣が苦しい。

「左の高橋(10勝5敗)が頑張っているから、優勝争いができている。戸郷(8勝6敗)は成績はそこそこだけど、菅野同様、今年はフィニッシュが浅くて球離れが早い。これだとキレもコントロールも悪くなるし、打者から球が見やすくなっている気がします」

 ――投手以外では?

「次は捕手ですね。勝てるチームには軸になる捕手が一人いる。巨人は大城、小林……と定まらない。大城の打撃を見たら使いたくなるんでしょうけど、捕手はまず守り。守備だけなら小林ですよ。でも、この1、2年、原監督が小林をあまり使わなくなったのは、何か理由があると思います。練習量が足りないとか、やっていることが物足りないとか、ポカがあるとか。その点、阪神は梅野が軸になっているのが強みです」

 ――巨人のチーム打率はリーグ5位の.247。打線もパッとしない。

「巨人も阪神もですが、打順が毎日変わりますよね。打順によって役割が違うので選手がどっしり腰を据えて戦えない。もちろん、準備はするんだけど、出るか出ないか分からない選手が多いと、やっぱりチームが落ち着かない。強いチームはある程度メンバーを固定していることが多い」

 ――規定打席到達者は巨人が3人なのに対し、阪神は8人。

「両球団とも打順は変わるけど、阪神の方がレギュラー陣が固定されている分、戦い方が安定している。やっぱり優勝する確率は高いんじゃないでしょうか」

 ――原監督が阪神戦で坂本を六回裏からベンチに下げて6―0から同点に追い付かれた試合があった。原監督は「采配ミス」と言った。

「そうは言っても、坂本に故障か何かあったんでしょう。連敗で迎えた3戦目だから、そうじゃなければ、あんなに早く代えませんよ。あの場面で交代せざるを得なかった坂本が心配です」

 ――原監督は今年、カウントの途中で投手を代える継投策を多用している。

「あれは中継ぎ投手に『もっとオレに信頼される投手になれ』とハッパをかける意味合いがあると思います。原監督は物足りないんです。カウントの途中で代えられる投手はもちろん嫌ですが、打者にとっても、あの継投は嫌なものなんです」

中堅投手たちが阪神を引っ張っている

 ――阪神が首位にいる要因は?

「青柳(10勝3敗)が良くなりましたね。私がスカウト時代、担当ではありませんでしたが、最後の方(2015年ドラフト5位)に入ってきた。あの頃よりコントロールが良くなった。いいところは、グチャグチャのフォームから、打者の手元に来るまで、どっちに曲がるか分からない軌道。横に曲がったり落ちたりする。より打者寄りで変化するようになり、球持ちが良くなりました」

 ――中尾さんがスカウト時代に獲得した岩崎が、今では勝ち試合のセットアッパー(30HP)として侍ジャパンにも選ばれた。

「日本代表入りはビックリしました。球は速くないけど空振りが取れる。スピンが効いていて球界で一番球持ちがいいんじゃないか。大学(国士舘大)の頃から球持ちは良かったけど、体が大きくなりましたね。あとは秋山(10勝5敗)の復活も大きい。青柳、秋山、岩崎といった中堅投手たちがチームを引っ張っている。もう一人、復活して欲しい投手は……」

 ――もう一人?

「矢野監督は藤浪(3勝3敗)を復活させて欲しいよね。2、3年目(11勝8敗、14勝7敗)は良かった。右腕を振る時に右の肘から先が叩けていた。それが今はできなくなって球がシュートするようになった。腕を速く振ろうとするあまり、肘から先が使えていないから、しならない。捕手の送球も、投げ急いで早く手を使おうとすると、指にかからないことが多い。肘から先は一番最後。肩の回転で腕を引っ張らないと、肘から先が使えない」

 ――前半戦はドラフト1位ルーキー佐藤輝が牽引したが、今は二軍調整中。

「前半戦はいいところで打っていました。藤浪はともかく、佐藤輝が復活できるかが優勝へのカギになる。あれだけアッパースイングでは、低めは打てても高めは打てない。打っていた時はヘッドがもっと立っていました」

 ――阪神、ヤクルト、巨人のどこが有利?

「条件はレギュラー陣、主力に故障者を出さないこと。地力は巨人ですが、無失点記録を作った抑え投手のビエイラが離脱し、リリーフ陣がバタバタしている。ヤクルトは打線に爆発力があるから2球団は怖いでしょう。チームワーク、結束力は阪神。やはりレギュラー陣が固定されていて、投手陣がしっかりしている阪神に分があるような気がします」

中田翔は「打って黙らせる」くらいの根性を見せて

 ――巨人が日本ハムで暴力事件を起こした中田をトレードで獲得。9日間しか出場停止期間を経ず、すぐに試合に使ったことが物議を醸した。

「それが短いといえばそうかもしれないけど、出した日本ハムも取った巨人もそれでよしとした。心を入れ替えて移籍したはずだし、まだ32歳。再起のチャンスをもらったわけだから、立ち直って欲しいというのが正直なところ」

 ――打率.150で二軍落ち。立ち直れそう?

「遠慮しながらやっているように見える。試合に出るからには『オレが打って黙らせてやるよ』くらいの根性を見せて欲しい。原監督もそういうタイプだと思って使っていたと思います」

 ――腰の状態が悪いとの情報も。

「今の打ち方は下半身が使えていない。足が突っ張った状態でスイングしているし、右足のねじれもない。腰が痛いと、これができないんです。しっかり治して、もうひと花咲かせないと、殴られた選手も報われない。巨人に恩返しをしないといけませんからね」

(聞き手=増田和史/日刊ゲンダイ)

▽中尾孝義(なかお・たかよし)


 1956年2月16日、兵庫・北条町(現・加西市)生まれ。滝川高―専大―プリンスホテル。80年ドラフト1位で中日入団。1年目から正捕手として82年のリーグ優勝に貢献してMVP。88年オフに交換トレードで巨人へ。89年に日本一。92年移籍した西武で93年に現役引退。3球団で日本シリーズに出場。引退後は西武、オリックス、阪神などでコーチなどを歴任。2009年から16年まで阪神スカウト。17年3月に専大北上高監督に就任。18年春、秋に東北大会に進出。19年11月に退任した。

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