プロ野球の契約交渉は“銭闘”だけじゃない! 球界OBが明かす「私はこんなことを訴えた」

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 オフシーズンのこの時季は契約更改真っ盛り。多くの選手が査定に泣き、笑う。しかし、金銭交渉もさながら、年に一度、球団に自分の意見を忌憚なく言える場でもある。ソフトバンクの千賀が「球場の水回りを修繕してほしい」と訴えたように、年俸以外の要望を行う選手も少なくない。契約更改で実際に球団に物申した球界OBたちに聞いた。

■アンダーシャツは「家で洗えるだろ」

 南海・ダイエー(現ソフトバンク)で通算100勝と活躍した山内孝徳氏は「南海時代の貧乏話は言い出せばキリがありませんが……」と、笑いながらこう話す。

「僕が球団にお願いしたことで印象的なのは主に2つ。1つは『トレーナーを増やしてくれ』です。当時、南海はトレーナーが一軍に2人しかいなかった。試合当日の開始1時間前は先発投手のマッサージなど1人が付きっ切りになるので、残った1人で他の選手全員の面倒を見なきゃいけない。僕は先発投手だったので、なんだか申し訳なくなって……。まあ、球団は『お金がない』の一点張りでトレーナーが増えることはありませんでしたが。もう1つは『ホームゲームでも洗濯をしてくれ』ということです」

 プロ球団ならユニホームの洗濯は当たり前。南海も大阪のランドリーと契約していたが、あくまで洗ってくれるのはユニホームだけだった。

「アンダーシャツとかは洗ってくれないんですよ。夏場に先発したら、1試合で5、6着はシャツを替えなきゃいけない。遠征中は洗ってくれるのですが、本拠地の試合では『家に帰って自分で洗えるじゃないか』という球団の理屈です。いやいや、それはいくらなんでもねえ(笑い)。西武や阪急、近鉄にも『南海ってそんなこともやってくれないの?』と驚かれました。結局、これも球団がダイエーに身売りをするまで変わりませんでした(苦笑い)」(山内氏)

 試合やパフォーマンスに直結する要望をする選手は今も昔も少なくない。

 1999年を境に“ドーム球場化”した西武では、以降、毎年のようにナインから「壁も造って完全なドーム球場にしてくれ」と訴えが続いたほど。壁がないので春先は寒く、夏場は選手がぶっ倒れるほど蒸し暑い。

 選手の訴えも無理はないが、そこまでの大規模改修は莫大な資金が必要になる。当然、球団も「NO」と言うほかなく、今もメットライフドームには風が吹いている。

■寮に女性の幽霊が? 球団に「おはらい」をお願い

 中には屈強な選手たちですら太刀打ちできず、球団に文字通り助けを求めるケースもある。83年にドラフト1位で広島に入団し、投手コーチを経て、後にフロント入りして編成グループ長なども務めた川端順氏が証言するのは「幽霊」だ。

「当時の三篠寮は建物が古く、私の隣の部屋は空き部屋だったんですが、同期入団の紀藤(真琴)がある時、『外から女性の幽霊が見えた』と言うんです。僕は霊感がないので、そういうのは見えたことがないんですが、隣の部屋だけに寝られたもんじゃない。だから、契約更改の席で球団代表に『おはらい』をお願いしました。同じ年に紀藤もおはらいを頼んだみたいです。当時の寮の裏には池があって、元は沼地だったとか。原爆で水を飲みに来て亡くなった人の霊が出てきたんじゃないかという噂がありました。すぐに球団がおはらいを手配してくれて、その後は幽霊を見たという話は聞かなくなりました」

選手食堂が800円なのに選手には500円の食券…差額分は自腹

 プロ野球選手は体が資本なだけに、食事に関する要望も多い。前出の川端氏が言う。

「私が1、2年目の頃、一軍のナイターが終わった後に寮に帰ると、食事は冷えたまま並べてある感じでした。当時、二軍選手は何十人といましたが、寮住まいの一軍選手は6、7人。たったそれだけのために、職員は残らないわけです。電子レンジもなかったし、冷めきって油も固まったしょうが焼きなんて食べられたもんじゃない。そこで契約更改の時に言ったら、1人が遅くまで残ってくれるようになって、ようやく温かい食事が食べられるようになりました」

 近年では巨人の岡本が19年の契約更改で「ドームの食堂のメロンが堅いので、熟したものを」と訴えた。何ともぜいたくな話である。

「メロンが堅いって……メロンが出るだけいいじゃないですか(笑い)。南海なんて選手食堂が800円なのに、選手は500円の食券しか渡されなかった。差額分は自腹ですよ? ええ、これも『せめて無料で』とお願いしましたが、結果は言うまでもないでしょう」(山内氏)

■新幹線グリーン車移動も球団に何度も掛け合った

 84年ドラフト2位で、93年にはヤクルトの選手会長を務めた秦真司氏は、ホテルや移動について要望を出した。

「選手会長の時は、選手と裏方さんのホテルの待遇改善をお願いしました。当時は選手が2人部屋で裏方さんは大部屋ということが多かった。まるで修学旅行です。プライベートはないし、イビキがうるさくて寝られないこともザラ。たばこを吸う、吸わないとか、テレビを見る、見ないなどバラバラですからね。選手に影響があるのも困るし、裏方さんだってパフォーマンスが発揮できなくては、チームにとってマイナスになる。ホテルのグレードアップや、それができないなら、せめて個室にしてもらえるように訴えました。しかし、すぐには変わりませんでした。あとは新幹線の移動の際にグリーン車にしてほしいと頼んだこともあります。今でこそ、一軍の選手はグリーン車で移動しますが、当時は普通車。あの頃から球団に言い続けて、やっと勝ち取ったものなんです」

■たった10秒間で年俸アップ

 金銭交渉では納得できないと「ハンコ忘れましたので、判を押せません」と言うのが定番。元阪神投手の福間納氏(ロッテ・78年ドラフト1位)もそのひとりだ。

「現役晩年、減俸提示を受けたときに1度だけ、言いました。もちろん、本当はハンコを持っていますけど、わざと『忘れた』と。前年との比較で年俸を決められ、成績も幾分かよくなって、査定ポイントも前年より高いはずだったのにガッカリですよ(苦笑い)。『これではいくら何でも低いですよ』と訴えたけど、提示が変わらなかったので、最後の最後に『あと200万上げてくれたら判を押しますよ』と言いました。そしたら当時の球団代表がウーン……と10秒くらい考えて、『ヨシ分かった、あと200万上げてやる。その代わり、マスコミには内緒にしとけよ』と。10秒考えただけでOKが出るくらいだったら、最初から上げてくれりゃ……とも思いましたけどね(笑い)」

 山内氏は南海フロントの「ウチは入場者が少ないのでお金がない」の繰り返しに業を煮やし、球団にこう訴えた。

「だったら子供を無料にすればいいじゃないか、と。子供がタダなら、付き添いの大人も来場する。そうすれば、球場のグッズや飲食物も売れる。観客が増えれば僕らも『下手なプレーは見せられない』と、今まで以上に奮起する。そうなると勝ちも増えるかもしれない。お客さんが1000人でも1万人でも、試合後の清掃員の人数や賃金は同じなんですから。『俺らも頑張りますから、フロントも努力してください』と言いましたけどねえ……」

 きょうも日本のあちこちで、静かな“激闘”が繰り広げられている。

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