漫画『おおきく振りかぶって』の作者ひぐちアサさんが高校野球愛を激白!「原点は88年の『さわやか旋風』」
モデルになった選手は…
──具体的にモデルになった選手はいますか。
「エース投手だった星野(豊)くんをモデルに三橋の原型ができました。4番打者や捕手、主将も、浦和市立の選手をイメージしてつくりました。星野投手はずっとニコニコして飄々としている。三橋みたいに弱気で自信がない人じゃなくて、ピンチでも表情を変えない。初めは三橋もそういうキャラだったんですが、ネームを直しているうちにああいうキャラに。そもそも主人公は(西浦のライバル校の)捕手の秋丸(恭平)で考えていました」
──星野さんと実際に会ってお話をした機会は。
「2021年にさいたま市制20周年のキャンペーンに参加させていただいたとき、浦和市立の話をさいたま市役所の方たちとリモートでお話ししていたら、『星野はここにいますよ』と言われて。市役所で働かれていたことは知っていましたが、すでに画面上におられて驚きました(当時、広報課長)。その後、お礼の手紙が来て役所の方からかなと思ったら、星野さんが直接書いてくださっていて本当にうれしかった。中村三四監督には何回か取材をさせてもらい、私が『モデルは市立浦和です』と話した新聞記事の切り抜きを持っていてくださって『こんなうれしいことはないよ』と言っていただき、感動しました」
──榛名元希(※1)の登場は連載序盤の04年で20年以上前。故障回避のために登板しなかった大船渡(岩手)の佐々木朗希(※2)を“予言”したような設定だと感じました。
「昔は高校野球で肩を使い切っちゃう選手がたくさんいました。『痛いと言えば交代させられちゃうから監督に言えない』という時代。監督という存在がものすごく強い。もっと自分を大事にしてほしい、言いたいことが言えない状況に反発するような気持ちもあって生まれたキャラクターです。でも、佐々木選手は逆で、彼は投げたいのに監督ストップがかかっていましたよね」
(※1)榛名元希…西浦と同じ埼玉県内にある武蔵野第一高の2年エース左腕。野球の強豪校ではないながらプロを目指し、「1日80球」の投球制限をかたくなに守る。その背景には中学時代に経験した登板過多による故障があった。
(※2)佐々木朗希…大船渡高のエースで「令和の怪物」。19年夏の岩手大会決勝(対花巻東)で、当時指揮を執っていた国保陽平監督がメンバーから外し、5番手投手を登板させた大船渡は試合に敗れ、35年ぶりの甲子園切符を逃す。監督は出場回避の理由を「故障から守るため」と説明したが、甲子園出場というチームの夢よりも佐々木個人の将来を優先した起用に賛否が渦巻いた。