期待の新人・落合博満が突然「大学を辞めたい」…兄と姉を呼び、3人がかりの説得は深夜に及んだ(下)
社会人野球の東芝府中が、東洋大のグラウンドにやってきた。
当時の東芝府中はさほど強いチームではなかった。ウチの二軍でも十分、試合になった。
わたしは試合前のノックを終え、水道で顔を洗った。さあ、やるぞ! とタオルで顔を拭いていると、背後に気配を感じた。
「その節は、いろいろとすみませんでした。ご迷惑をかけて……」
落合が気恥ずかしそうな表情で立っていた。
「なんだ、おまえ、東芝府中に入ったのか? そりゃ、よかったな」
落合は秋田工出身だった。東芝の府中工場なら、高校時代に培った技術や経験も生かせる。
「ちょうどよかったじゃないか。ご両親、兄姉も安心しただろう。いいところに入ったな」
そして「真面目にやれば、課長くらいにはなれるよ!」と軽口を叩いたことを覚えている。「課長」どころか、プロでとんでもない選手になるとはそのとき、思いもしなかった。(この項おわり)