SNSよりずっと深い往復書簡本特集

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「虫の時間」こだま、いりえ著

 SNS全盛の昨今、短い言葉を短時間交わしたり、スタンプで交流したりすることは増えたものの、時間をかけた言葉のやりとりはめっきり減ってしまった。だからこそ往復書簡本は、昨今のコミュニケーションでは拾えない深い交流にあふれている。



「虫の時間」こだま、いりえ著

 会社を辞めて期間限定の古本屋をやってみた「間借り書房いりえ」の書店主「いりえ」と、私小説「夫のちんぽが入らない」やエッセー「ここは、おしまいの地」で読者を驚かせた異色の作家「こだま」による往復書簡。書房いりえのイベント後、常連のお客さんの思い付きから始まったという計22通に及ぶ手紙のやりとりは、社交辞令的な言葉とは真逆の切実な話題に満ちている。ふたりは、日常のなかで気持ちをざわめかせる虫の出現や風呂キャンセル話、洗濯物をしまえない、先延ばし癖などなど、多くの人が他人には隠しがちな〈どこか変かもしれない自分〉をありのままの形で提示し合う。

 公開前提の往復書簡なのだが、できそうでできない人と人との深い交流をふとのぞき見してしまったかのような、不思議な読後感がある。 (秋月圓 2090円)

「言霊の舟」白川静、石牟礼道子著、笠井賢一編

「言霊の舟」白川静、石牟礼道子著、笠井賢一編

 石牟礼道子が書いた新作能「不知火」は、人はなぜ歌い踊るのかという根源的な問いが含まれており、この追求には白川静の知見が欠かせなかったという。白川の文字学と石牟礼の音曲、芸能への志向の合体で新作能の歴史を変える「不知火」が生まれたと考えた本書の編者の笠井は、ふたりの交流の手がかりを追って、ふたつの対談と未公開書簡を本書に収めた。

 すでに鬼籍に入ってしまったふたりは、かつてどのように言葉を交わし合ったのか。対談で「弟子にしてください」と、石牟礼が白川に助言を求め、白川が「文字」に隠された深い意味について丁寧に説明していく様子は、まるでふたりが生き返って話し合っているかのよう。さらに何度も交わされた書簡は、互いに欠かさず交流を続けてきた様子がうかがえる貴重な資料となっている。

「海をわたる言葉」クォン・ナミ、村井理子著

「海をわたる言葉」クォン・ナミ、村井理子著

 日本と韓国、それぞれの国で翻訳という仕事を続けてきたふたりの翻訳家。本書は、同じ職業のふたりがメールを交わし合った記録を収録した往復書簡本。

 日本の文芸書を300冊以上翻訳しているクォン・ナミ氏は、自著のエッセー「ひとりだから楽しい仕事」が日本で翻訳出版された際に村井氏が絶賛してくれたことを機に村井氏の動向が気になってXをフォローしたのだが、そこで彼女が愛犬を亡くしたことを知り、なぐさめのメールを村井氏に送った。そこから始まったメールのやりとりが集英社公式サイトでの往復書簡のきっかけとなったという。違う国で同じ職業に邁進してきたふたりは、言葉を交わしてみると子育てや介護などに悩んだ似たような共通点があった。

 巻末にはついに対面したふたりの対談が収録されている。 (集英社 1870円)



「本をひらく」杉江由次、大森皓太著

「本をひらく」杉江由次、大森皓太著

「本の雑誌社」で営業や編集に携わる杉江氏は、東京都三鷹市の「UNITÉ」と京都市南区の「鴨葱書店」という2軒の独立系書店を開いた書店主・大森氏に誘われて、2025年10~12月の2カ月間で12通の書簡を交わした。50代の杉江氏と30代の大森氏は2回り違いの亥年生まれという世代の違いはあれ、本という同じ関心事について話題が深まっていく。

 たとえば街の本屋の激減と独立系本屋の激増、そもそも独立系本屋とは何か、返品と利益率、マスメディアとパーソナルメディア、文学フリマやZINEが大盛況な理由、本の装丁やコピーについて、日常の本屋での売り上げの激減とイベント時にだけ本が爆売れする現象などなど、昨今の出版業界、書店業界を巡るコアな話ばかりだ。

 言葉を届ける現場にいるふたりならではの、旬な話が興味深い。 (本の雑誌社 1540円)

【連載】ザッツエンターテインメント

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