「変身」堀潤著
■大マスコミの看板より市民としての責任を
あれほどの大災害と大事故が、2年半を経て急速に忘れられようとしている。しかし原発事故の影響はいまもあらわ。本当にこのままでいいのか。
NHKきっての若手行動派キャスターとして人気のあった著者。東電福島第1原発の事故報道でツイッターからさまざまな情報発信をおこなったのが上層部に疎まれ、渡米留学中に制作したドキュメンタリー映画が局からの圧力で上映中止に。毀誉褒貶(きよほうへん)の中、ついに退職した著者はフリーのジャーナリストとして取材をつづけ、本書を世に問うた。
といってもNHK告発記ではない。取材の過程でいかに市民目線で原発事故の実態に迫る意欲を固めたか。事故当時の混乱の中、NHKではベテラン記者でさえもが「クビを覚悟で」しか詳しく報道できなかった。著者はそのとき大マスコミの看板より市民としての責任から、テレビでは突っ込めない側面をツイッター発信して圧力を受けたのだ。
組織ジャーナリストの中には「あれは単なる服務規定違反で本人が悪い」という声もあるが、この程度の独走さえ許さない空気が「秘密保護法」にもつながっているというべきだろう。ツイッターなどのニューメディアは誤報も出がちなもろ刃の剣。それでもネットを使いこなしながら市民ジャーナリズムの未来を切り開こうとする意欲にあふれている。