「月日の残像」山田太一著

公開日: 更新日:

■名シナリオライターの精神の軌跡

「岸辺のアルバム」や「ふぞろいの林檎たち」など数々の名作ドラマを生み出した著者が、今までに出会った人々や小さな日常の出来事や言葉など、ひとつひとつの記憶の残像を取り出して丁寧に描いたエッセー集。季刊「考える人」に9年にわたって連載された35編がまとめられている。

 戦争で疎開した子ども時代、松竹撮影所での助監督修業時代の思い出、木下恵介、向田邦子、市川森一などあの世に旅立ってしまった人との忘れられないやりとり、シナリオライターという職業から見た景色などが語られていく。さらに著者が若いときに読んだ本の中から気になった一節を抜き出して書いていたという「抜き書きノート」の内容も紹介されており、そこから著者の精神の軌跡をたどることもできる。劇作家のニール・サイモンの自伝、山之口貘や中桐雅夫の詩、トリュフォーの映画、チェーホフの手紙など、著者が触発されてきた作品の数々も興味深い。
「ドラマにせよ小説にせよ映画にせよ戯曲にせよ、頭の中の大半が嘘の話で占められている」と自嘲する著者の実生活に流れる、静かな息遣いが文面から聞こえてくる。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “お荷物”佐々木朗希のマイナー落ちはド軍にとっても“好都合”の理由とは?

  2. 2

    遠野なぎこさんを追い詰めたSNSと芸能界、そして社会の冷酷無比な仕打ち…悲惨な“窮状証言”が続々

  3. 3

    ドジャース大谷翔平がついに“不調”を吐露…疲労のせい?4度目の登板で見えた進化と課題

  4. 4

    清原果耶「初恋DOGs」にファン失望気味も…《低視聴率女王》待ったなしとは言い切れないウラ事情

  5. 5

    会議室で拍手が沸き起こったほどの良曲は売れなかった

  1. 6

    国分太一が社長「TOKIO-BA」に和牛巨額詐欺事件の跡地疑惑…東京ドーム2個分で廃墟化危機

  2. 7

    兵庫は参院選でまた大混乱! 泉房穂氏が強いられる“ステルス戦”の背景にN党・立花氏らによる執拗な嫌がらせ

  3. 8

    極めて由々しき事案に心が痛い…メーカーとの契約にも“アスリートファースト”必要です

  4. 9

    遠野なぎこさんか? 都内マンションで遺体見つかる 腐乱激しく身元確認のためDNA鑑定へ

  5. 10

    新横綱大の里が直面する「遠方への出稽古慣れ」…車での長距離移動は避けて通れない試練に