「手塚治虫が描いた戦後NIPPON(上・下)」手塚治虫著

公開日: 更新日:

 その他、都市開発に伴う自然破壊をテーマにした「鉄腕アトム」の「赤いネコの巻」(53年)、核実験が平然と行われていることへの怒りを込めて描かれた「ブラック・ジャック」の「絵が死んでいる!」(75年)、そしてバブル絶頂期の日本企業のエリートビジネスマンを主人公に日本人とは何かを描こうとしたが作者の死で未完となった「グリンゴ」(87年)など。

 各人気シリーズをはじめ、デビュー作の「マアチャンの日記帳」(46年)や、1969年に沖縄で起きた米軍の神経ガス放出事件をヒントに描かれた「イエロー・ダスト」(72年)やハルマゲドンをテーマにしたSF「熟れた星」(71年)など戦慄の結末が待っている短編秀作まで、上下巻19作を収録。

 中にはペニスとお尻の形をした不思議な生き物が増殖するさまを描きながらゴミ問題に焦点を当てた「ペックスばんざい」(69年)など、コミカルでちょっとエッチな作品もある。

 焼け野原から出発して70年。これまで何度も氏が作品で警鐘をならしてきた問題は今も続くどころか、ますます深刻化している。氏の創作の原動力であった「マンガを自由に描ける戦後の平和」も近年、その土台が揺るぎ始めている。今なお決して古びることのないメッセージを放ち続ける氏の作品が、改めて歴史を見つめ直すことの大切さを教えてくれるだろう。(小学館 各1500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

  2. 2
    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

  3. 3
    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

  4. 4
    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

  5. 5
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

  1. 6
    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

  2. 7
    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 8
    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

  4. 9
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 10
    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異

    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異