変わりダネ芸術本特集

公開日: 更新日:

「写実絵画とは何か?」安田茂美・松井文恵著

 空前の日本美術ブームで、今や人気の美術展は2時間、3時間待ちの行列は当たり前。芸術の楽しみ方は人それぞれなのだが、新しい視点から作品を見たり、これまで知らなかった新しいジャンルにも挑んでみれば、美術鑑賞がより楽しく深く味わえるのではなかろうか。そんな未知の美術体験に導いてくれる本を紹介する。

 安田茂美・松井文恵著の「写実絵画とは何か?」(生活の友社 1800円+税)は、世界で唯一の写実絵画専門の美術館「ホキ美術館」の収蔵品から選りすぐりの作品を紹介しながら、写実絵画の魅力を解説するアートブック。

 かつて、ビジュアルで物を見せることができるのは絵画だけだった。しかし、写真の登場で物をリアルに伝えるメディアとしての役割を終えた絵画は、印象派やキュービズム、そして抽象画へと、その表現の幅を広げていった。そして今、あえて写真のリアリズムに挑むかのように写実絵画に取り組む作家が日本で活躍を始めていて、同美術館ではそうした現代作家による作品を収蔵展示する。

 百聞は一見にしかず。現代写実作家の先駆けといえる森本草介の「横になるポーズ」や、小尾修の「遠い記憶」などの裸婦画を、何も知らずに見たならば、そのあまりのリアルさにまずは写真と思ってしまうに違いない。それが油彩などを用いて描かれた絵画だということを念頭に改めて眺めると、女性の肌の質感はもちろん、彼女たちが身にまとう布の陰影、そして、背景となる木の板の描写まで、作品が放つ存在感に圧倒される。

 それは、風景や動物、静物を主題にした作品も同様で、その存在感こそが、時には数年、数十年の時間を費やされ、作家によって「過去の記憶も含まれた現在」が丹念に描き込まれる写実絵画と、一瞬を切り取る写真的なリアリズムの違いともいえる。

 各作品と共にそれぞれの作家の作品に対する思いや創作哲学も紹介。歴史的な写実絵画とはまた一味違うこの現代の写実絵画、まったく新しいジャンルとしてアートシーンに確かなる足場を築いていく予感がする。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

    日本球界今オフを襲うポスティング地獄…“予備軍”もゴロゴロ、空洞化ますます加速

  2. 2
    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

    佐々木朗希とのただならぬ関係…陰で糸引く「黒幕」は大船渡高時代の韓国遠征まで追いかけた

  3. 3
    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

    ついに国民年金65歳まで納付案が…政府がヒタ隠す「年金積立金250兆円」という都合の悪い真実

  4. 4
    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

  5. 5
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

  1. 6
    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

    「白鵬の弟子」押し付け合い勃発! あちこちから聞こえる師匠譲りの不穏な評判

  2. 7
    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 8
    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

    キムタク主演ドラマがまさかの1ケタ…“考察”慣れしすぎて王道スポ根が楽しめない?

  4. 9
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 10
    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異

    大谷は徹底した個人主義、思考回路も米国人…ゴジラ松井とはメンタリティーに決定的差異