「人間晩年図巻 1990-94年」関川夏央著

公開日: 更新日:

 目次にずらりと人名が並び、カッコの中に、死因と享年が書いてある。栃錦(脳梗塞肺炎・64歳)、グレタ・ガルボ(肺炎/腎機能障害・84歳)、江青(縊死・77歳)、山本七平(膵臓がん・69歳)、長谷川町子(脳血腫・72歳)、中上健次(腎臓がん・46歳)、永山則夫(刑死・48歳)、オードリー・ヘップバーン(大腸がん・63歳)……。1990年代前半に没した人物の中から、著者の記憶に残る人、好きな人35人を選び、その晩年に焦点を当てて人物像を描いている。

 たとえば、阿呆役をやらせたら天下一品の喜劇役者・藤山寛美は豪快に遊び、膨大な借金をこしらえ、肝臓を痛めて60歳で亡くなった。芸人が芸人でいられた時代だった。

 逸見政孝は学生時代からアナウンサーを志し、局アナからタレントへの道を歩んだ。全盛期に胃がんを発症、短過ぎる晩年の後、48歳で亡くなった。その後、バラエティー番組がテレビを席巻する。

 F1レーサーとして人気ナンバーワンだったアイルトン・セナは、34歳の時、レース中に事故死。そのころを境に、カーレースも自動車人気そのものも下降し始める。

 金正恩の祖父、金日成は、心筋梗塞で死亡。享年82。長寿研究所をつくって長生きに執着したが、独裁者も死の前では無力だった。

 同時代を生きた人たちの「晩年図巻」は、おのずと同時代史になっている。人生80年といわれて久しいが、時代に影響力を持った人たちの生涯は、平均寿命に届いていないことが意外に多い。人生、長さではなく密度。残された時間をこれからどう生きるかを考える契機にもなりそうだ。(岩波書店 1800円+税)

【連載】人間が面白い

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  2. 2

    生田絵梨花は中学校まで文京区の公立で学び、東京音大付属に進学 高3で乃木坂46を一時活動休止の背景

  3. 3

    未成年の少女を複数回自宅に呼び出していたSKY-HIの「年内活動辞退」に疑問噴出…「1週間もない」と関係者批判

  4. 4

    2025年ドラマベスト3 「人生の時間」の使い方を問いかけるこの3作

  5. 5

    2025年は邦画の当たり年 主演クラスの俳優が「脇役」に回ることが映画界に活気を与えている

  1. 6

    真木よう子「第2子出産」祝福ムードに水を差す…中島裕翔「熱愛報道」の微妙すぎるタイミング

  2. 7

    M-1新王者「たくろう」がネタにした出身大学が注目度爆上がりのワケ…寛容でユーモラスな学長に著名な卒業生ズラリ

  3. 8

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  4. 9

    高市政権の積極財政は「無責任な放漫財政」過去最大122兆円予算案も長期金利上昇で国債利払い爆増

  5. 10

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手