著者のコラム一覧
佐々木寛

1966年生まれ。専門は、平和研究、現代政治理論。著書(共著)に「市民社会論」「『3・11』後の平和学」「地方自治体の安全保障」など多数。現在、約900キロワットの市民発電所を運営する「おらってにいがた市民エネルギー協議会」代表理事、参院選新潟選挙区で野党統一候補を勝利に導いた「市民連合@新潟」の共同代表。

9条は日本人の歴史的な「無意識」に根差す「文化」

公開日: 更新日:

「憲法の無意識」柄谷行人著 岩波書店 760円+税

 参院選が終わり、自公政権が「圧勝」だったというマスメディアの報道は、果たして本当だったのだろうか。結果をつぶさに見れば、現政権の「終わりの始まり」を見てとることはできないか。少なくとも、「改憲」へのゴーサインが出たという総括には無理がある。

 選挙期間中、現政権は極力「改憲」を争点化しないように努めた。しかし選挙後には、予想通り、「承認が得られた」として着々とその手続きを進めようとしている。繰り返されるそのような政治手法に、当の国民もいくらなんでもおかしいと思い始めている。今後いずれにせよ、都知事選や衆院選を迎える中で、安倍政権下の政治では、ますますこの国家の構成原理=憲法をめぐる問題が争点となるだろう。

 しかし本書を読めば、安倍政権のもくろみがそれほど簡単ではないことが分かる。それは、日本国憲法9条の枠組みが、日本人の(徳川時代にもつながる)歴史的な「無意識」に根差すもので、それが常に超越的に現実社会を規制するからだ。

 著者によれば、9条は憲法の条文である以上に、日本の「文化」(超自我)である。したがって、この原理に反すれば、いかなる政治権力もその足場を失うことになる。さらにこの「文化」は、世界史上の無数の平和思想から「贈与」されたという普遍的経緯を有しており、その意味で、憲法が「押し付けであったかどうか」という議論はきわめて皮相的なものとなる。

 本書は、「9条があれば安心」というタイプの条文信仰の議論を排し、いわば「9条の血肉」を明らかにし、そのリアルな普遍性を再確定しようとする。「改憲派」であろうと「護憲派」であろうと、憲法議論は少なくとも本書が到達した地平から出発すべきだろう。すなわち、日本の「改憲」問題の中心にはしっかりと9条の問題が鎮座しているという政治的事実。そしてそれが「押し付けられた」がゆえに普遍性をもっているという政治的事実である。

【連載】希望の政治学読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    清原和博氏が巨人主催イベントに出演決定も…盟友・桑田真澄は球団と冷戦突入で「KK復活」は幻に

  2. 2

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  3. 3

    99年シーズン途中で極度の不振…典型的ゴマすりコーチとの闘争

  4. 4

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  5. 5

    日銀を脅し、税調を仕切り…タガが外れた経済対策21兆円は「ただのバラマキ」

  1. 6

    巨人今オフ大補強の本命はソフトB有原航平 オーナー「先発、外野手、クリーンアップ打てる外野手」発言の裏で虎視眈々

  2. 7

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  3. 8

    林芳正総務相「政治とカネ」問題で狭まる包囲網…地方議員複数が名前出しコメントの大ダメージ

  4. 9

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  5. 10

    角界が懸念する史上初の「大関ゼロ危機」…安青錦の昇進にはかえって追い風に?