著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「手蹟指南所『薫風堂』」野口卓著

公開日: 更新日:

 野口卓は、デビュー作「軍鶏侍」の作風から「朴訥で真っすぐ」とのイメージを抱きやすいが、その後の「ご隠居さん」シリーズや、「北町奉行所朽木組」シリーズなどを見ると、もっと幅広い作家であることがわかる。

 しかし「器用」というキャッチフレーズはやっぱり野口卓に合わない気もするので、はて何だろうと思っていた。本書を読みながら、はっと気がついた。野口卓は、懐が深い作家なのだ。だから、「軍鶏侍」「ご隠居さん」「北町奉行所朽木組」という持ち味の異なるシリーズが自然に同居できるのである。本書もそういう一冊だ。

 これは、浪人・雁野直春が手習所を始める話である。薪炭商の店を息子にまかせた忠兵衛老人に人柄を見込まれて手習所をまかされるのだが、直春の生い立ちにはちょっと複雑な事情がある。それをここで紹介すると長くなるので省くけれど、その背景の事情をはじめとして手習所に通う子供らや周囲の人間たちのさまざまな人間関係がドラマの奥行きをつくっている点は見逃せない。

 なによりも、おやっと思うのはこれが恋の物語であることだ。こういう物語を野口卓が書くのは初めてである。その点でも異色の、この作家の懐の深さを表す作品といっていい。その恋のお相手が誰なのかは読んでのお楽しみにしておく。

 青春時代劇としてテレビドラマの原作にぴったりではないかと思うが、どうか。(KADOKAWA 600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「NHKの顔」だった元アナ川端義明さんは退職後、いくつもの不幸を乗り越えていた

  2. 2

    永野芽郁の「文春」不倫報道に噛みついたGACKTさんは、週刊誌の何たるかがわかっていない

  3. 3

    前田健太「ドジャース入り」で大谷との共闘に現実味 日本復帰より「節目の10年」優先か

  4. 4

    元NHK岩田明子は何をやってもウケない…コメントは緩く、ギャグはスベる、クイズは誤答

  5. 5

    ウクライナ出身力士 安青錦がすべてを語った…単身来日して3年、新入幕で敢闘賞

  1. 6

    小田和正「77歳の現役力」の凄み…現役最年長アーティストが守り続ける“プロ意識”

  2. 7

    奥さんが決断してくれた…元大関の小錦八十吉さん腎臓移植を振り返る

  3. 8

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  4. 9

    のんを襲った"後輩女優の二股不倫報道"の悲劇…カルピスCMめぐる永野芽郁との因縁

  5. 10

    Mrs.GREEN APPLEとディズニーのコラボに両ファン懸念…売れすぎた国民的バンドゆえの"食傷感"