世紀のスキャンダル「パナマ文書」リークの全貌

公開日: 更新日:

 税金を納めたくない富裕層が、自国に納めるべき税金を国境を越えさせることでまんまと逃れ、莫大な資産を形成する。バスティアン・オーバーマイヤー、フレデリック・オーバーマイヤー著「パナマ文書」(姫田多佳子訳 KADOKAWA 1800円+税)では、今年初めに報道されたタックスヘイブンにまつわる一大スキャンダルが、どのようにして明るみに出たのかを追うノンフィクションだ。

「ハロー、私はジョン・ドゥ。データに興味はあるか?」。ある日、南ドイツ新聞のバスティアン記者の元に、一通のメールが届く。ジョン・ドゥとは、英語圏で実名が公表されては困る人物に用いられる仮名であり、日本語でいえば匿名希望、名無しの権兵衛といったところだ。

 リークものの取材を得意とするバスティアン記者にとって、この手のメールは珍しいものではなかった。しかし、ジョン・ドゥは非常に警戒心が強く、身元が明らかになれば自分の生命が危険にさらされるため、情報はすべて暗号化してやりとりしたいという。その一方で、情報提供に対する報酬は要求しない。情報が報道され、犯罪が公になることを望むというのだ。

 バスティアン記者は、暗号通信に必要なアカウント情報を送り、ジョン・ドゥからの通信を待った。すると、すぐに大量のPDFファイルが届き始める。最初の資料に記されていたのは、アルゼンチンを舞台に当時現職の大統領が6500万ドルの国費を国外に持ち出したとされる疑惑の詳細。それは123社ものペーパーカンパニーを介して行われ、すべてのカンパニーの設立にはモサック・フォンセカというパナマの法律事務所が関わっていた。さらに、モサック・フォンセカはカダフィ、アサド、ムガベなど、残虐な権力者とのビジネスにも関わっていることが記されていたのだ。

 世界20カ国以上で出版された本書。最終的に2・6テラバイトにも及んだ膨大な情報を精査した、各国のジャーナリストたちの奮闘の様子も読みごたえたっぷりだ。日本語版には、池上彰氏による解説も収録されている。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    3Aでもボロボロ…藤浪晋太郎の活路を開くのは阪神復帰か? 日本ハム、オリックス移籍か

    3Aでもボロボロ…藤浪晋太郎の活路を開くのは阪神復帰か? 日本ハム、オリックス移籍か

  2. 2
    本来は「9月左翼構想」だが…大谷が打てば打つほど手術明けの外野守備は前倒しの気配

    本来は「9月左翼構想」だが…大谷が打てば打つほど手術明けの外野守備は前倒しの気配

  3. 3
    訪日客狙い“奥日光2泊3日400万円ツアー”のアテが外れた理由

    訪日客狙い“奥日光2泊3日400万円ツアー”のアテが外れた理由

  4. 4
    「いまだに、ああいうスタンスは何なのだろうと…」当時の山田GMが首をひねった図太い神経

    「いまだに、ああいうスタンスは何なのだろうと…」当時の山田GMが首をひねった図太い神経

  5. 5
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  1. 6
    真美子夫人も共同オーナーに? 大谷「25億円別荘購入」の次は女子プロバスケチーム買収か

    真美子夫人も共同オーナーに? 大谷「25億円別荘購入」の次は女子プロバスケチーム買収か

  2. 7
    大谷「DH独占」打ちまくり、週間MVPも…他の野手を休ませられないロバーツ監督のジレンマ

    大谷「DH独占」打ちまくり、週間MVPも…他の野手を休ませられないロバーツ監督のジレンマ

  3. 8
    3人兄妹の末っ子だから年上と遊ぶ機会が多く、彼らと遊ぶだけの体力もあった

    3人兄妹の末っ子だから年上と遊ぶ機会が多く、彼らと遊ぶだけの体力もあった

  4. 9
    東山紀之社長の鉄面皮「SMILE-UP.」の体質は旧態依然…進まぬ被害者補償に批判と失望

    東山紀之社長の鉄面皮「SMILE-UP.」の体質は旧態依然…進まぬ被害者補償に批判と失望

  5. 10
    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間

    当時日本ハムGMだった山田正雄氏が「この性格はプロでやる上でプラスになる」と確信した決定的瞬間