体育会系女性教師が文学に目覚め

公開日: 更新日:

「図書館の神様」瀬尾まいこ著/ちくま文庫 500円+税

【話題】学校という空間において、保健室や理科室と並んで一風変わった空気をはらんでいるのが図書室だ。そこには授業を中心とした学校の日常と、ほんの少しずれた時空があり、知らぬ間にその中に入り込んでしまうことがある。本書には、ある地方の図書室で起こったささやかな奇跡が描かれている。

【あらすじ】18歳までの早川清は、典型的な体育会系女子としてバレーボールに打ち込んでいた。高校3年の夏、大差でリードしていたにもかかわらず、山本という部員のミスで練習試合に負けてしまい、清はキャプテンとして山本を叱責。その翌日、山本が自殺したと知らされる。

 清の言葉が原因かどうか不明だったが、その日を境に清の生活は一変する。友達は離れ、部活もやめ、地元の体育大学志望だった清は地方の私立大学へ進学。

 卒業後はバレーボール部の顧問になれればと高校の講師となったが、結果は真逆の文芸部顧問。しかも、その年の部員は垣内という男子生徒一人だけ。こうして3階にある図書室で、垣内と一対一の部活動が始まることに。

 最初のうちはまるでやる気のなかった清だが、「文学が好きです」と真っすぐに言い放つ垣内に感化され、徐々に文学に触れる喜びを感じるようになる。そして3学期の終わりには、文芸部をつぶそうとする学校側に対して、堂々と反対の意見を論じるまでに。図書室に毎日通っているうち、名前の通り、清く正しく生きていくことを信条としていたかつての清を取り戻していたのだ。

【読みどころ】海を見下ろす図書室で、人生を諦めかけた若い女性教師と、いささか屈折はしているが文学に真摯に向き合う男子生徒が対峙している――そんな姿を思い浮かべると、タイトルの意味がわかってくるような気がする。〈石〉

【連載】文庫で読む 図書館をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「ばけばけ」好演で株を上げた北川景子と“結婚”で失速気味の「ブギウギ」趣里の明暗クッキリ

  2. 2

    西武・今井達也「今オフは何が何でもメジャーへ」…シーズン中からダダ洩れていた本音

  3. 3

    N党・立花孝志容疑者にくすぶる深刻メンタル問題…日頃から不調公言、送検でも異様なハイテンション

  4. 4

    我が専大松戸は来春センバツへ…「入念な準備」が結果的に“横浜撃破”に繋がった

  5. 5

    N党・立花孝志氏に迫る「自己破産」…元兵庫県議への名誉毀損容疑で逮捕送検、巨額の借金で深刻金欠

  1. 6

    高市首相「議員定数削減は困難」の茶番…自維連立の薄汚い思惑が早くも露呈

  2. 7

    高市内閣は早期解散を封印? 高支持率でも“自民離れ”が止まらない!葛飾区議選で7人落選の大打撃

  3. 8

    高市政権の物価高対策はパクリばかりで“オリジナル”ゼロ…今さら「デフレ脱却宣言目指す」のア然

  4. 9

    高市首相は自民党にはハキハキ、共産、れいわには棒読み…相手で態度を変える人間ほど信用できないものはない

  5. 10

    “文春砲”で不倫バレ柳裕也の中日残留に飛び交う憶測…巨人はソフトB有原まで逃しFA戦線いきなり2敗