有名な本探しのエピソードにひねり

公開日: 更新日:

「おさがしの本は」門井慶喜著/光文社文庫 680円+税

【話題】今では図書館の資料検索などもインターネットで済ませることが多くなったが、検索しようにも記憶が曖昧で探しようがなく、人と話しているうちに目当ての本に思い当たることもしばしばだ。そんな時は、やはり対面のレファレンスサービスはありがたい。

 本書は図書館のレファレンスカウンターを舞台に繰り広げられる、ちょっとミステリアスな事件を描いた連作短編集。
【あらすじ】和久山隆彦はN市立図書館に入職して7年。ここ3年は資料調査課に配属されて日々、レファレンスカウンターに座っている。現れたのは20歳前後の女の子で、「シンリン太郎について調べたいんですけど」と言ってきた。和久山は内心「またか」と思う。それは森林太郎、つまり文豪・森鴎外の本名で、年に一度は必ず舞い込む質問だ。

 ところが、彼女が書き写したリポートの課題には「林森太郎『日本文学史』を読み、考えたところを記せ」とある。きっと彼女が写し間違えたのだろうと、鴎外の似たようなタイトルの文章を探してやるのだが……。

 その他、赤い富士山が出てくる本、早川図書とか何とかのシリーズ本、陰茎で障子を突き破るシーンが出てくる小説等々。

 ちょっとした本好きであれば、「ああ、あれか」と思いつくだろう。ところがどっこい、そうは簡単にいかない。そこにどのようなひねりを利かせるかが、著者の腕の見せどころ。

【読みどころ】こうした本探しのエピソードと並行して、市の財政難により図書館を廃止しようと乗り込んだ新館長と、それを阻止して存続を図ろうとする和久山ら図書館員たちとの対決も語られていく。最後に和久山が語る図書館存続の意義は本好きの心を打つ。〈石〉

【連載】文庫で読む 図書館をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  4. 4

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 5

    “名門小学校”から渋幕に進んだ秀才・田中圭が東大受験をしなかったワケ 教育熱心な母の影響

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    今秋ドラフト候補が女子中学生への性犯罪容疑で逮捕…プロ、アマ球界への小さくない波紋

  3. 8

    星野源「ガッキーとの夜の幸せタイム」告白で注目される“デマ騒動”&体調不良説との「因果関係」

  4. 9

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  5. 10

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも