軍隊経験が語らせた「負けてよかった」

公開日: 更新日:

「よみがえる力は、どこに」城山三郎著 新潮文庫

 戦争に「負けてよかった」と考える者と、「よくなかった、今度こそは」と考える者との争いなのである。後者の先頭に、戦争犯罪人というレッテルを貼られた岸信介の孫の安倍晋三が立ち、問題の森友学園籠池泰典らが愛国を掲げて続く。いずれも戦争体験はない。

 17歳で海軍に志願して少年兵となった城山三郎は同い年の作家、吉村昭との対談で、吉村に、

「城山さん、あの戦争、負けてよかったですね。負けたのが一番の幸せ。そう思いませんか」と問いかけられ、

「元少年兵としては、負けてよかったとは言いたくないけどね(笑)。でも、あのまま行ったら、大変だったろうね」

 と答えている。

「第一、軍人が威張ってどうしようもなかったでしょう」

 という吉村のさらなる問いかけに、

「軍人が威張る、警官が威張る、町の警防団長も威張る」

 と応じ、以下、こんなやりとりをしている。

鉄道員まで威張る」

「愛国婦人会の会長も威張る。在郷軍人会も威張る」

「今は、お巡りさんもやさしいものね。『すみませんが』とくるものねぇ(笑)」

「昔は汽車に乗っても検札の時、客は被疑者扱いだった(笑)」

 この城山の発言を受けて、吉村が、

「今はみんな優しくて本当にいい時代ですよ(笑)」

 と結ぶ。これは1995年の対談だが、つまり、教育勅語が生きていた時代は、籠池のような人間がわがもの顔に振る舞っていたということである。少年兵として陰湿なイジメを受け、「愛国」を叫ぶ者の実態を知った城山は、こう強調する。

「軍隊に入るということは、私にも経験がありますが、何もかも奪われるということです。情報がない。自由がない。肉体的自由だけでなく、抗弁もできず、絶対的服従を強いられるのですから、言論の自由もない。戦地では弾薬も食料もない。こういう経験をして復員して来ると、自分をそんな目に遭わせた体制への腹立ちもありますが、同時に、二度と同じことを起こしてはダメだという思いを根強く感じるようになります」

「戦争で得たものは憲法だけ」なのである。★★半(選者・佐高信)

【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高市首相が招いた「対中損失」に終わり見えず…インバウンド消費1.8兆円減だけでは済まされない

  2. 2

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  3. 3

    現行保険証の「来年3月まで使用延長」がマイナ混乱に拍車…周知不足の怠慢行政

  4. 4

    長女Cocomi"突然の結婚宣言"で…木村拓哉と工藤静香の夫婦関係がギクシャクし始めた

  5. 5

    「NHKから国民を守る党」崩壊秒読み…立花孝志党首は服役の公算大、斉藤副党首の唐突離党がダメ押し

  1. 6

    国民民主党でくすぶる「パワハラ問題」めぐり玉木雄一郎代表がブチ切れ! 定例会見での一部始終

  2. 7

    ドジャース大谷翔平が目指すは「来季60本15勝」…オフの肉体改造へスタジアム施設をフル活用

  3. 8

    男子バレー小川智大と熱愛報道のCocomi ハイキューファンから《オタクの最高峰》と羨望の眼差し

  4. 9

    長女Cocomiに熱愛発覚…父キムタクがさらに抱える2つの「ちょ、待てよ」リスク

  5. 10

    【武道館】で開催されたザ・タイガース解散コンサートを見に来た加橋かつみ