軽快な大阪弁で語られる音楽漬け少女の心情

公開日: 更新日:

「ミュージック・ブレス・ユー!!」津村記久子著/角川文庫 520円+税

【話題】電車の中などで、若者の音楽プレーヤーのヘッドホンから音が漏れ出し、顔をしかめている中高年という図をよく見かける。

 しかし考えてみれば、自分の身近で常に音楽を聴くことができるようになったのはそう昔の話ではない。ウォークマンが登場したとき、歩きながら音楽を聴けるというのは音楽好きにはまさに福音だったが、それから40年近く経った今、そうした環境はごく当たり前。逆に、その環境がなければ生きていけないという人もいる。

 本書はそんな音楽漬けの高校3年生の女の子が主人公。

【あらすじ】幼稚園から中学校にかけてのアズミは、じっと座っていられないし、先生の話もちゃんと聞けないし、教科書やノートはしゅっちゅうなくすし、中学に入るまで靴のひもも結べなかった。それでも父親がこの高校に受かったらCDを10万円分買ってやろうと言ったので、泣きながら勉強してなんとか合格する。というのも、アズミにとって何より大事なのが音楽なのだ。

 人と話しているとき、やる気がそがれていないときの授業中、アルバイトの間などを除いて、アザミはヘッドホンを頭から離すことがなく、ひたすら音楽に身を浸していた。聴くのはもっぱらパンク。

 しかし、3年生になり、彼女がベースを担当していたバンドは解散、唯一の友達のチユキは、金沢の国立大学を目指して受験勉強中、3学期を前にいまだ進路が決まらないアズミは、自分は一体何をしたいのだろうか、と考え込んでしまう……。

【読みどころ】背が高く、髪を赤く染め、歯にはカラフルな矯正器といったアズミが、なぜそこまで音楽にのめり込んでいくのか。そんな彼女のナイーブな心情が、軽快な大阪弁に乗って語られていく青春小説。
<石>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  2. 2

    ドジャース大谷翔平が直面する米国人の「差別的敵愾心」…米野球専門誌はMVPに選ばず

  3. 3

    Snow Man目黒蓮と佐久間大介が学んだ城西国際大メディア学部 タレントもセカンドキャリアを考える時代に

  4. 4

    ポンコツ自民のシンボル! お騒がせ女性議員3人衆が“炎上爆弾”連発…「貧すれば鈍す」の末期ぶりが露呈

  5. 5

    高市新政権“激ヤバ議員”登用のワケ…閣僚起用報道の片山さつき氏&松島みどり氏は疑惑で大炎上の過去

  1. 6

    クマが各地で大暴れ、旅ロケ番組がてんてこ舞い…「ポツンと一軒家」も現場はピリピリ

  2. 7

    田村亮さんが高知で釣り上げた80センチ台の幻の魚「アカメ」赤く光る目に睨まれ体が震えた

  3. 8

    自維連立が秒読みで「橋下徹大臣」爆誕説が急浮上…維新は閣内協力でも深刻人材難

  4. 9

    ラウールが通う“試験ナシ”でも超ハイレベルな早稲田大の人間科学部eスクールとは?

  5. 10

    「連合」が自民との連立は認めず…国民民主党・玉木代表に残された「次の一手」