各章にザ・ハイロウズの歌のタイトル

公開日: 更新日:

「よろこびの歌」宮下奈都著/実業之日本社文庫 533円+税

 もし高校2年生の女の子が「16にして余生だ」なんて言ったとすると、「いやいや人生っていうのは」なんてお説教のひとつでも垂れるか、あるいは「そんなことないよ」と言って励ますか、というのが大方の反応だろうが、そのどちらでもなく、言葉にし得ない心の声に耳を傾けることができるのが宮下奈都という作家の資質のような気がする。

 本書には自分の居場所を持てずにいる6人の女子高校生たちが登場するが、作者はその一人一人に寄り添いながらその心情を丹念に拾い、静かに見守っていく。

【あらすじ】御木元玲は有名なバイオリニストを母親に持ち自分も幼い頃から声楽家を目指していたが、合格すると思っていたはずの音大付属高校の受験に失敗。仕方なく新設女子高の普通科に進み、周囲との付き合いを拒みながら過ごしていた。ところが校内合唱コンクールの指揮者に指名されて事態は一変する。

 そんな玲を支えるのが、ピアノを習いたかったけれど経済的な事情で夢をかなえられなかった原千夏、肩を壊してソフトボールの夢を断たれ高2にして余生だと達観する中溝早希、霊視能力があることで悩む牧野史香ら同級生たちだ。

 とはいえにわか仕立ての合唱部、コンクールは惨めな失敗に終わる。これで終わりと思ったが、マラソン大会で最下位の玲を励ますために自然と湧き起こった同級生らの歌を聴いた玲は、自分が音楽というものを取り違えていたことに気づく……。

【読みどころ】物語は各章、玲たち6人それぞれの視点から描かれ、いずれも日本のロックバンド「ザ・ハイロウズ」の歌のタイトルが付されている。そして合唱曲として歌われるのはイタリアの歌曲「麗しのマドンナ」。このユニークな組み合わせも独特の味を出している。 <石>


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 2

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  3. 3

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  4. 4

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  5. 5

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    今度は横山裕が全治2カ月のケガ…元TOKIO松岡昌宏も指摘「テレビ局こそコンプラ違反の温床」という闇の深度

  3. 8

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    大谷翔平のWBC二刀流実現は絶望的か…侍J首脳陣が恐れる過保護なドジャースからの「ホットライン」