著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「夏の祈りは」須賀しのぶ著

公開日: 更新日:

 県立高校の野球部を舞台にした連作集である。おやっと思うのは、その構成だ。全5話が収録されているが、1988年の第1話から始まって、ほぼ10年おきの話になっているのだ。ただし、2017年を描く第4話と第5話は正編と続編の関係にある。

 同じ高校野球部を舞台にしながらも10年おきというのは、登場人物がだぶらないということだ。各話の県大会で活躍した選手たちのその後を知りたくても、物語に再登場することはないので、私たちは彼らのその後の人生を知ることがない。時折、あのときのエースはその後プロに入ったらしいと伝聞で語られるだけである。

 こういう構成のために、物語に奥行きが生まれていることに留意。高校球児にとってはただ一度の夏であっても、その「ただ一度の夏」は毎年訪れる、という真実がここから浮き上がってくる。

 登場人物は再登場しないと先に書いたが、例外が第4話、第5話の監督香山始だ。彼は第1話のときは現役の野球部員で主将だった。それから30年後のいま、他校の監督を経て母校、埼玉県立北園高校の監督に就任し、最終話が始まっていく。北園高校は県大会準優勝がこれまでの最高成績で(香山が現役のときはベスト4だった)、まだ県大会で優勝したことがない。はたして香山率いる北園高校は、県大会で優勝できるのか、甲子園出場という悲願は達成できるのか。こうして2017年の埼玉県予選が始まっていく。

 (新潮社 520円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希に向けられる“疑いの目”…逃げ癖ついたロッテ時代はチーム内で信頼されず

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    注目集まる「キャスター」後の永野芽郁の俳優人生…テレビ局が起用しづらい「業界内の暗黙ルール」とは

  4. 4

    柳田悠岐の戦線復帰に球団内外で「微妙な温度差」…ソフトBは決して歓迎ムードだけじゃない

  5. 5

    女子学院から東大文Ⅲに進んだ膳場貴子が“進振り”で医学部を目指したナゾ

  1. 6

    大阪万博“唯一の目玉”水上ショーもはや再開不能…レジオネラ菌が指針値の20倍から約50倍に!

  2. 7

    ローラの「田植え」素足だけでないもう1つのトバッチリ…“パソナ案件”ジローラモと同列扱いに

  3. 8

    ヤクルト高津監督「途中休養Xデー」が話題だが…球団関係者から聞こえる「意外な展望」

  4. 9

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 10

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?