音楽で世界は変えられないのか

公開日: 更新日:

「第二音楽室」佐藤多佳子著/文春文庫 505円+税

 10年ほど前、ロックミュージシャンのニール・ヤングが、「音楽が世界を変える時代は過ぎ去った」と言って大きな反響を呼んだ。

 本書収録の「裸樹」の登場人物もこんな言葉を漏らしている。「(音楽で自分や世界が変わると思っていろいろやってみたが)私も変わらないし、私のまわりも変わらないし、世界は変わらない。私がギターを弾こうが弾くまいが何も変わらない」と。

【あらすじ】吉井望は中学2年のとき、同級生の心ない仕打ちで不登校に陥ってしまう。私立女子校に進んだ望は軽音部に入部するが、ひょんなことからギターを弾いていた望を除き、ほとんど楽器経験のない3人とバンドを組み文化祭に出演することに。それはむちゃだと反対したかったが、ここで余計なことを言えばまた仲間から外されてしまう。

 悶々と日を過ごしているとき、軽音部の先輩江上と出会う。江上は何年か留年し学校にもめったに来ない幽霊部員だが、彼女こそ望を音楽で救ってくれた人だった。中学でのいじめでうつうつとしていたとき、公園できれいな女性のギターの弾き語りを聴いた望はその歌に引き込まれてしまう。以来、「裸樹」という歌は望の心の支えとなったが、そのときの女性が江上だったのだ。

 江上の音楽で世界は変えられないという言葉を聞いた望は、そうじゃない、ここに救われた人間がいると言いたいが口に出せず、代わりにもう一度、自分と一緒にあの歌を歌ってもらえないかと頼む……。

【読みどころ】本書にはこの「裸樹」をはじめ、学校と音楽をテーマにした4編が収録されている。いずれの登場人物も音楽に接することで何らかの変化を被っている。そう、音楽は世界は変えられないかもしれないが、人の心を変えることはできる。 <石>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手

  2. 2

    早瀬ノエルに鎮西寿々歌が相次ぎダウン…FRUITS ZIPPERも迎えてしまった超多忙アイドルの“通過儀礼”

  3. 3

    2025年ドラマベスト3 「人生の時間」の使い方を問いかけるこの3作

  4. 4

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢

  5. 5

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  1. 6

    大炎上中の維新「国保逃れ」を猪瀬直樹議員まさかの“絶賛” 政界関係者が激怒!

  2. 7

    池松壮亮&河合優実「業界一多忙カップル」ついにゴールインへ…交際発覚から2年半で“唯一の不安”も払拭か

  3. 8

    維新の「終わりの始まり」…自民批判できず党勢拡大も困難で薄れる存在意義 吉村&藤田の二頭政治いつまで?

  4. 9

    日本相撲協会・八角理事長に聞く 貴景勝はなぜ横綱になれない? 貴乃花の元弟子だから?

  5. 10

    SKY-HI「未成年アイドルを深夜に呼び出し」報道の波紋 “芸能界を健全に”の崇高理念が完全ブーメラン