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「失踪者」下村敦史著

 街中は紅葉が見ごろを迎えているが、山は一足早く冬を迎え、雪に覆われ始めている。雪山にも挑む猛者はともあれ、多くの登山愛好家たちはシーズンを終えて早くも山が恋しくなっているのではなかろうか。そこで、今週はおすすめ山岳小説5冊を紹介する。

 山岳カメラマンの真山は、単身で南アンデスのシウラ・グランデ峰に挑む。10年前、登山中の事故で氷河のクレバス(亀裂)に消えた友人・樋口を迎えに来たのだ。しかし、極寒のクレバスに閉じ込められ凍り付いた樋口の遺体に10年前の面影はなく、明らかに年をとっていた。

 奇跡的に生還した樋口が、連絡をよこすこともなく、ひっそりと生き、そして再び同じ場所で命を落としたとしか考えられない。理由がはっきりするまで、遺体をそのまま残すことにした真山は、帰国後、知人からかつてチョ・オユーで樋口そっくりのクライミングスタイルの男と出会ったことがあると聞く。男は谷本と名乗ったという――。

 天才クライマーの孤高の人生とその謎に迫る長編山岳ミステリー。

(講談社 1600円+税)

「白い標的」樋口昭雄著

 甲府市の宝石店で強盗事件が発生。3億7000万円相当の宝石を強奪した犯人3人組は、駆け付けた警備員を射殺して逃走する。

 3日後、県外に逃走したと思われた犯人が山梨県内にとどまっていることが判明。南アルプス署地域課の夏実と堂島は、所轄内のコンビニに犯人が立ち寄ったことを突き止める。監視映像から、犯人が2人と1人に分かれて行動していることがわかった。

 夏実らは犯人の車を追走するが、彼らの罠にはまって堂島が被弾してしまう。やがて、犯人2人が雪に覆われた南アルプスの北岳に向かったことが判明する。県警の要請で、夏は山岳救助隊員として働く夏実らが、相棒の救助犬とともに山に入る。

 警察小説と山岳小説が融合した長編エンターテインメント。

(角川春樹事務所 1800円+税)

「淳子のてっぺん」唯川恵著

 女性として世界で初めてエベレスト登頂に成功した田部井淳子さんの生涯を描く評伝小説。

 福島県の三春町で育った淳子は、小学生のときに教師に誘われ登った那須岳で登山の魅力に開眼。進学した東京の大学で人間関係に行き詰まり、心身が不調に陥ったときも、山に登ることで自分を取り戻していく。就職後、山岳会に入会して、さらに本格的な登山にのめり込む淳子だが、紅一点の淳子の存在が会の不協和音を生み出し、彼女は自ら退会。ひとりで山に登り始めた淳子は、幼なじみの勇太と再会し、彼の友人の松永らと憧れの谷川岳に通うように。熟練の松永に鍛えられた淳子は、彼からヒマラヤを狙えと目標を与えられる。

 別れと出会いを繰り返しながら、一途に山と向き合った淳子が、あらゆる困難を乗り越え、エベレスト登頂を果たすまでを克明に描いた感動の書。

(幻冬舎 1700円+税)

「神の涙」馳星周著

 両親を事故で失い、屈斜路湖畔に住む祖父の敬蔵に引き取られた中学3年の悠は、別の町に進学し、二度とこの町には戻らないつもりだ。

 ある日、見知らぬ若い男・尾崎が敬蔵を訪ねてくる。アイヌ木彫り作家の敬蔵は、材料の木材を求め、山に入ったまま何日も帰宅していなかった。数日後、再び訪ねてきた尾崎は敬蔵に弟子入りを志願する。偏屈で知られる敬蔵は拒むが、敬蔵の作品の信奉者であるホテル社長の口添えで渋々、アトリエへの出入りを許す。実は別の目的があり、敬蔵に近づいた尾崎だが、その迫力ある作品に心が動く。数カ月後、悠が学校から帰宅すると、警察が待っていた。また山に入った敬蔵に何かが起きたのではないかと悠は身構える。

 大自然とともに生きるアイヌの敬蔵、そのアイヌの血を忌み嫌う孫娘・悠、そして東京から逃げてきた尾崎の人生が錯綜するサスペンス。

(実業之日本社 1600円+税)

「ソロ SOLO」笹本稜平著

 29歳の無名の登山家・和志には、心に秘めたプランがあった。世界4位の高峰・ローツェ南壁の単独登攀だ。ローツェ南壁は、和志が心の師と仰ぐスロベニアのクライマー、トモ・チェセンがかつて単独登攀に成功している。

 しかし、登攀後にその快挙に疑問を投げかける声が出て、現在まで決着がついていない、いわくつきのルートだった。自身も誰の手助けも受けずに登頂する単独登攀のスタイルにこだわる和志は、トモの著書に共感。トモが南壁に残置してきたという3本のピトン(岩の割れ目に打ち込む器具)を見つけ、彼の成功を証明するつもりだ。その日を目指し、ヒマラヤで技術を磨く和志に、人づてに彼のことを知ったトモ本人から連絡が入る。

 たったひとりで世界屈指の壁に挑む孤高のクライマーの挑戦を描く山岳小説。

(祥伝社 1800円+税)

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