音楽の華・打楽器奏者が主人公

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「麦ふみクーツェ」いしいしんじ著/新潮文庫 710円+税

 音楽小説というと、主役となる楽器はピアノ、ギター、バイオリンの3つが主で、打楽器を主軸に据えた物語はあまりない。ところが、本書の主人公の祖父「吹奏楽の王様」でティンパニストの言によれば、吹奏楽の背骨をつくるのは打楽器であり、打楽器こそ音楽の根元、そして華ということになる。

【あらすじ】主人公の「ぼく」は石畳の敷かれた港町で、祖父と父と3人で暮らしている。祖父はティンパニストとして町の楽団を率いており、音楽に対しては一切の妥協を許さない偏屈者。父はオムレツを作るのが得意な数学者で、素数に取りつかれている。ぼくは飛び抜けて体が大きく、ねこの鳴き真似がうまいことから「ねこ」と呼ばれている。

 祖父の影響で幼い頃から打楽器に親しんできたが、ある夜、とん、たたん、とん、という音を耳にする。それは麦ふみクーツェと名乗る謎の人物が土を踏む音で、その姿はぼくにしか見えない。以来、事あるごとにクーツェが現れることになる。

 やがてぼくは町を離れ、音楽学校に進み音楽家を目指すのだが、その間にさまざまな出来事に出くわす。大量のねずみが空から降ってきて町が大混乱に陥り、それを機に父がねずみに取りつかれてしまう。かと思えば、詐欺師のセールスマンに町じゅうの人たちがだまされたり、なんとも奇妙な挿話がいくつも織り込まれる。

 そして盲目の元ボクサーで異常に聴覚の発達した「ちょうちょおじさん」といった奇妙な人物も登場し、著者独特のファンタスティックな世界が描かれていく。

【読みどころ】本書を原作にした音楽劇も上演され、そこで演奏されたサウンドトラック集には、物語に登場する楽曲が収められている。

<石>

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