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北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

 施薬院は、病人の収容・治療を行う施設で、730年に皇后によって設立された。ただし、藤原氏の積善を喧伝するためにつくられたにすぎない施設なので、宮城内の医師は真剣に協力せず、金にも出世にも興味を持たない町医師が中心になって働いている。天然痘が猛威を振るう都にあって施薬院は唯一の治療の場なので、設立の趣旨はともかく、心ある医師たちは逃げ出すわけにはいかない。綱手はそういう医師のひとりである。天然痘の治療法がわからぬまま患者を診なければならない綱手の苦闘がかくて続いていく。

 もうひとつのドラマの主役は、内薬司の侍医であった諸男だ。彼は何者かの罠で獄に落とされる。3年間の獄中の様子がリアルに描かれるが(それだけでも読みごたえがある)、恩赦によって釈放され、自分を獄に落とした者へ復讐を誓うことになる。

 この2つのドラマが徐々に合流し、混然一体となって展開していく。疫病の猛威と懸命に闘う医師もいれば、混乱に乗じて金儲けを企む男たちもいて、8世紀半ばの奈良を舞台にした人間模様が、鮮やかに描かれていくから、まったく目が離せない。

 澤田瞳子は2010年にデビューした作家で、これまでにさまざまな賞を受賞してきた時代小説界のホープだ。17年は「腐れ梅」という傑作も上梓しているが、同年にそれに劣らぬ傑作が書かれるとは思ってもいなかった。ぜひ堪能されたい。

(PHP研究所 1800円+税)

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