ある日、手にしたパンは異次元のうまさだった

公開日: 更新日:

「まぼろしのパン屋」松宮宏著 徳間文庫/610円+税

 朝食はパンか、ご飯か。各種統計によって数字は異なるが、大ざっぱに全体では、ご飯がパンをやや上回り、若い世代はご飯派、高齢者はパン派が多いようだ。本書の主人公はコメと納豆の朝食で育った50代の男性。それがこのところ昼を除いて、朝も晩もパンという生活を強いられている。

【あらすじ】
大手電鉄会社に勤める高橋は35年ローンを組み、自社が開発した神奈川県大和市つきみ野に一軒家を購入。毎日1時間かけて渋谷の会社まで通っていて、いかに座席を確保するかが日々の大事な課題という、平々凡々たるサラリーマン人生を送っていた。

 このまま万年課長で終わるかと思っていたら、3年前、裏金スキャンダルで飛ばされた上司に代わって、財務部長に就任。とはいえ、実質的にはお飾り部長で、やり手の執行役員の手足にすぎないのだが、余裕ができたのか妻はこのところパン作りに夢中。その試食で朝も晩もパンという羽目になったのだ。

 ある日曜日のこと、早朝出勤を命ぜられ、平日と違ってガラガラの電車に乗っていると、目の前にいた老女が、「どうぞ」と白い紙袋を差し出してきた。紙袋には「しあわせパン」と店名と住所が記されていて、開けるとひと握り大のフランスパンが入っていた。勧められるまま口にすると、妻の作るパンとは異次元のうまさだ。その後、住所を頼りにそのパン屋を訪ねてみると、店は空き家で店主の老女も5年前に亡くなっているという……。

【読みどころ】
うだつのあがらないサラリーマンの人生が、偶然に口にしたパンによって大きく変わっていくというファンタスティックな物語。表題作の他、神戸の焼き肉と姫路のおでんが登場する2編を併録。心温まる食べ物短編集。 
<石>

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    二階堂ふみと電撃婚したカズレーザーの超個性派言行録…「頑張らない」をモットーに年間200冊を読破

  2. 2

    参政党・梅村みずほ議員の“怖すぎる”言論弾圧…「西麻布の母」名乗るX匿名アカに訴訟チラつかせ口封じ

  3. 3

    キンプリ永瀬廉が大阪学芸高から日出高校に転校することになった家庭事情 大学は明治学院に進学

  4. 4

    さらなる地獄だったあの日々、痛みを訴えた脇の下のビー玉サイズのシコリをギュッと握りつぶされて…

  5. 5

    横浜・村田監督が3年前のパワハラ騒動を語る「選手が『気にしないで行きましょう』と…」

  1. 6

    山本舞香が義兄Takaとイチャつき写真公開で物議…炎上商法かそれとも?過去には"ブラコン"堂々公言

  2. 7

    萩生田光一氏に問われる「出処進退」のブーメラン…自民裏金事件で政策秘書が略式起訴「罰金30万円」

  3. 8

    二階堂ふみ&カズレーザー電撃婚で浮上したナゾ…「翔んで埼玉」と屈指の進学校・熊谷高校の関係は?

  4. 9

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  5. 10

    日本ハム中田翔「暴力事件」一部始終とその深層 後輩投手の顔面にこうして拳を振り上げた