大変なことがあったら、まずは腹ごしらえ

公開日: 更新日:

「食堂つばめ」矢崎存美著/角川春樹事務所571円+税

「食欲以上に真実である執念はない」とは、劇作家バーナード・ショーの言葉だが、本書は、この執念のおかげで生き延びることのできた男の話。

【あらすじ】
柳井秀晴は食べることが大好きで、頭に浮かぶのは食べ物のことばかり。大阪へ出張した帰りのこと。新幹線に乗っていたはずが、目を開けると周囲の様子がおかしい。ヘンだと思いつつ、お腹がすいたので車内をうろついていると、販売員らしい奇麗な女性に行き合う。

 聞けば、この列車には食堂車があるというので行ってみると、そのノエという女性が手ずから卵サンドを作ってくれた。その卵サンドの衝撃的なうまさに驚いていると、どこかの駅に停車した。何かに押されるように列車を降り、気づくと病院のベッドに寝ていた。そう、秀晴は臨死体験をして、あのまま列車から降りずにいたら帰らぬ人となっていたはず。まさに食への執念のおかげで命拾いしたのだ。それでもあの卵サンドの味が忘れられず一心に念じているうちに、ノエのいる「街」に迷い込む。

 この街はあの世とこの世の境界にあり、秀晴のように生死の境をさまよう人間がとどまっている。ノエとその相棒の「りょうさん」は、ここで死の世界へ行きかけている人をこの世に帰らせようとしており、秀晴にもその手伝いをしてほしいと頼まれた。そこで秀晴は、ノエの料理の腕を生かした食堂をつくり、その人たちにご飯を食べさせたらどうかと提案。そこで誕生したのが「食堂つばめ」だ。以後、秀晴は頻繁に食堂を訪れることに……。

【読みどころ】
摩訶不思議な世界が舞台であるが、そこには「何か大変なことがあったら、まずは腹ごしらえ」というメッセージが強く響いている。シリーズ全8巻の第1作。
<石>

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ前監督・吉井理人氏が佐々木朗希を語る「“返事もしなかった頃”から間違いなく成長しています」

  2. 2

    矢沢永吉ライブは『永ちゃんコール』禁止で対策も…B'z『客の大熱唱』とも通じる“深刻な悩み”

  3. 3

    ロッテ前監督・吉井理人氏が大谷翔平を語る「アレを直せば、もっと良く、170kmくらい投げられる」

  4. 4

    阿部監督のせい?巨人「マエケン取り失敗」の深層 その独善的な振舞いは筒抜けだった

  5. 5

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  1. 6

    オコエ瑠偉 行方不明報道→退団の真相「巨人内に応援する人間はいない」の辛辣

  2. 7

    ロッテ前監督・吉井理人氏が2023年WBCを語る「大谷とダルのリリーフ登板は準決勝後に決まった」

  3. 8

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  4. 9

    ドラマー神保彰さん ミュージシャンになるきっかけは渋谷109オープンだった

  5. 10

    ロッテ吉井理人監督の意外な「激情時代」 コーチの延々続く説教中に箸をバーン!殴りかからん勢いで…