「物語のおわり」湊かなえ著
35歳の智子は、安定期に入ったお腹の子とフェリーで北海道を目指す。日程が合わず飛行機で往復する夫と現地で合流するまでの束の間のふたり旅だ。妊娠3カ月の時、亡父と同じ直腸がんと診断された智子は、20年前に両親と旅した北海道を再び訪ねてみたかったのだ。
早朝の甲板で、智子は中学生くらいの少女・萌と出会い、彼女から「空の彼方」というタイトルの紙束を渡される。その中には、山あいの小さな町のパン屋の娘・絵美の物語がつづられていた。しかし、なぜか物語は結末まで描かれていなかった。(「過去へ未来へ」)
人生の岐路に立ち、北海道へひとり旅をする人たちの心が、結末のない物語と出合うことによって化学変化を起こすさまを描いた連作小説。(朝日新聞出版 640円+税)