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「ヘイト・クライムと植民地主義」木村朗、前田朗共編

 酷暑に加えて議員の差別発言など、ヘイトの時代の暑苦しさはいよいよ募るばかりだ。



 なぜ社会はヘイトに走るのか。反ヘイトのシンポジウム記録をもとに新たに書き起こした論考などを加えた本書によれば、ヘイトとは「人種・民族等の属性に着目した差別とその扇動による犯罪」。ヘイトクライムは「その暴力的側面」、ヘイトスピーチは「言動による側面に着目した概念」だ。これには歴史的な背景がある。

 巻頭の前田論文によれば西欧の大航海時代に始まる「500年の植民地主義」に加え、産業資本主義が発達し、そこに近代日本も参加した明治維新や北海道開拓など「150年の植民地主義」が重なる。この重層構造の上に、さらに戦後70年を経た日本国憲法が、戦前の過ちを見過ごし、「領土」や「国民」についての規定のないまま琉球やアイヌなどへの差別の構造を放置してきた「70年の植民地主義」が加わっている。

 学者のほか新聞記者、アーティスト、社会運動家など多彩な面々による鋭い問いかけだ。(三一書房 2300円+税)

「憎まない」マスウド・ソバハニ著

 日本在住30年余のイラン人の著者は「おかげさま」と「憎まない」、この2つの日本語をよすがに、日本での暮らしと事業を成功させてきた。つまり、ヘイトとは正反対の人生というわけだ。

 革命前のイランに生まれ、13歳でアメリカに移住。30歳で日本に暮らすイラン人女性と結婚し、それが縁で来日。日本の厳しい入管制度に悩まされたことも多々あるが、時々の縁を得てしのぎ、ペルシャじゅうたんの事業で成功を収めた。娘は日本人医師に嫁ぎ、息子は日本でプロゴルファーの道へと。「憎まない」「ねたまない」精神こそ和合の秘訣と説く。(ブックマン社 1500円+税)

「HATE! 真実の敵は憎悪である。」松田行正著

 アートもヘイトと無縁ではない。たとえば人種差別をむき出しにした戦争プロパガンダのポスターには、イラストレーターもデザイナーもいる。

 本書はグラフィックデザイナーによるヘイト研究。ヘイトポスターとは「相手をおとしめて印象づける」もの。著者は前著「RED」でヒトラーとナチのプロパガンダを論じているが、本書では対象を広げ、アメリカの黒人差別や対日プロパガンダ、ヨーロッパのユダヤ人差別などヘイトの歴史に迫る。(左右社 2500円+税)


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