「現代社会はどこに向かうか」見田宗介著

公開日: 更新日:

 先日、内閣府が公表した「国民生活に関する世論調査」によると、現在の生活について「満足」と回答した人が74・7%で過去最高となり、満足と答えた割合は20歳代の男女の比率が高い。本書によれば、1950~70年代の青年にとって、現在より豊かな未来が来るというのは当然の基底感覚だったが、21世紀の現在、このような未来を信じている青年はほとんどいない。未来に希望を託せなければ、その分、現状肯定が強まるということで、この世論調査はそのひとつの証しだろう。

 この「未来の消失」は、エネルギー消費の加速度的増大と世界全体の人口増加率が頭打ちになった時期とほぼ一致しており、現代社会が人類史の大きな曲がり角にさしかかっていることを示唆している。産業革命以降、加速してきた増殖と繁栄は環境容量と資源容量の限界に突き当たり、右肩上がりの発展曲線が横ばい状態となる。現代社会はそのとば口に立っているというのが著者の見立てだ。そして必要なのは、これ以上の「成長」は不要なものとして完了し、永続する幸福な安定平衡の高原(プラトー)として、近代の後の見晴らしを切り開くことだ、と。

 本書でも書かれているように、こうした減速や平衡を目指すのではなく、地球外に資源を求めたり、遺伝子組み換えやより効率的な核エネルギーの開発など、あくまでも拡大を志向するのもあり得る。しかし、人間もまた地球に生きる生命体であるという当たり前のことを理解すれば、その答えは自明だろう。その上で、我々人間がどのような未来をつくり上げていかなければならないのか――。

 本書は、長年にわたって戦後の社会学を牽引してきた見田社会学の総覧であり、未来を担うべき人びとへ希望を託した著者からの贈り物でもある。 <狸>

(岩波書店 760円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高市首相が招いた「対中損失」に終わり見えず…インバウンド消費1.8兆円減だけでは済まされない

  2. 2

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  3. 3

    現行保険証の「来年3月まで使用延長」がマイナ混乱に拍車…周知不足の怠慢行政

  4. 4

    長女Cocomi"突然の結婚宣言"で…木村拓哉と工藤静香の夫婦関係がギクシャクし始めた

  5. 5

    「NHKから国民を守る党」崩壊秒読み…立花孝志党首は服役の公算大、斉藤副党首の唐突離党がダメ押し

  1. 6

    国民民主党でくすぶる「パワハラ問題」めぐり玉木雄一郎代表がブチ切れ! 定例会見での一部始終

  2. 7

    ドジャース大谷翔平が目指すは「来季60本15勝」…オフの肉体改造へスタジアム施設をフル活用

  3. 8

    男子バレー小川智大と熱愛報道のCocomi ハイキューファンから《オタクの最高峰》と羨望の眼差し

  4. 9

    長女Cocomiに熱愛発覚…父キムタクがさらに抱える2つの「ちょ、待てよ」リスク

  5. 10

    【武道館】で開催されたザ・タイガース解散コンサートを見に来た加橋かつみ