北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「償いの雪が降る」アレン・エスケンス著、務台夏子訳

公開日: 更新日:

 たのしみな新人作家が登場した。読み始めたらやめられない面白さだ。

 主人公は大学生のジョー・タルバート。年長者の伝記を書く、というのが授業の課題だが、身近なところに知り合いがいないので介護施設を訪れると、カール・アイヴァソンという老人を紹介される。彼は30年以上前に14歳の少女をレイプして殺した罪で有罪判決を受け、ずっと服役していたが、末期の膵臓がんで今や死を待つ身。で、釈放されて介護施設にいるというわけ。カールがインタビューに同意してくれたので、ジョーの取材が始まるが、そのうちに30年以上前の事件に興味を覚えて、調べていくことになる。もしかしたらカールは真犯人ではないのかと。

 という話だが、回想シーンが印象的で鮮やかであること、自閉症の弟と、男遊びをやめない母親がいて、振り回されること。さらには、アパートの隣に美人の女子大生がいて調査を手伝ってくれること――とジョーの私生活も過不足なく描かれ、元死刑囚カールの造形も秀逸だ。死刑囚の無実を晴らしたら、やっぱりそいつが犯人だったという小説を読んだことがあるので、これもそうだったらイヤだよなあと読み進んだが、はたしてどうなるかは、当然ながらここに書かない。

 なによりもいいのは、人生のつらい面、過酷な面をきっちりと描いていながら、それでもなお、温かな気持ちにさせてくれることだ。

 早く次作を読みたい。

 (東京創元社 1180円+税)

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