「帰去来」大沢在昌著
大沢在昌が久々にSFの世界に帰ってきた。「新宿鮫」シリーズという大変刺激的な警察小説で知られるこの作家は、近未来の東京を舞台にした「B・D・T〔掟の街〕」や、美女の脳を移植された女性刑事を主人公にした「天使の牙」などの傑作SFを一方で書いてきた。それらの作品は、正しく言えば「SF的シチュエーションを導入した現代エンターテインメント」と言うべきだろう。つまりSFを読み慣れていない読者でもたっぷりと楽しめる面白小説である。そちらのラインの新作が本書だ。
今回の主人公は、警視庁刑事部捜査1課の巡査部長、志麻由子。連続殺人犯が現れそうな場所で張り込んでいるところを襲われ、首を絞められて気を失うところから、本書は始まっていく。目が覚めるとそこは、オーストラリアを中心とした太平洋連合との戦争には勝ったものの(アメリカは戦争に負けてメキシコに吸収されている)、長い戦いに経済は疲弊し、物資が配給制の世界になっている。エネルギー資源に乏しいので銀座は薄暗く、犯罪組織がはびこり、警官の汚職も多い。承天52年に戦争が終わり、いまは光和27年。そういう世界に、由子はタイムスリップしてしまうのである。
つまりこれは、パラレルワールドものだ。はたして彼女は元の世界に無事帰ってくることができるのか。ここから始まる波瀾万丈の物語を、私たちは固唾をのんで見守ることになる。
(朝日新聞出版 1800円+税)