「怖い短歌」倉阪鬼一郎著
「恐ろしい風景」をはじめ、「死の影」や「負の情念」などをテーマにした「怖い短歌」を集め、解説する異色アンソロジー。
国民歌人として親しまれる石川啄木だが、負の感情を露骨に表現した作品も詠んでいる。そのひとつが「どんよりと くもれる空を見てゐしに 人を殺したくなりにけるかな」。
啄木のそうした面を継承した夢野久作は、「腸詰めに長い髪毛が交つてゐた ジツト考へて 喰つてしまった」など、多くの「猟奇歌」を詠んでいる。長い髪から腸詰めの材料が人肉であることを認識したが、それにもかかわらず“確信犯的欲求”に基づいてそれを食う行為。さらに「ジツト考えて」という間がなおさら気色の悪さを際立たせると著者は言う。
570首もの短歌で、人間に巣くう闇を見つめる。 (幻冬舎 780円+税)