「八百万の死にざま」ローレンス・ブロック著、田口俊樹訳

公開日: 更新日:

 アル中の探偵という極めてユニークなキャラクターを生み出し、しかも35年という長きにわたるシリーズにまで仕立て上げたのが、ローレンス・ブロックの私立探偵マット・スカダー・シリーズだ。本書はシリーズ第5作で、シリーズの中でも傑作の評判が高く、アメリカ私立探偵作家クラブのシェイマス賞受賞作。

【あらすじ】マット・スカダーは元ニューヨーク市警の腕利きの刑事だったが、ある事件で彼が撃った流れ弾が幼い女の子を死なせてしまった。その自責の念からほどなく刑事の職を辞し、結婚生活も破綻。以後、マンハッタンの安ホテルを事務所兼住居として、訪れた客を相手に無免許で私立探偵を開業するが、過度の飲酒によりアル中になり、AA(アルコール中毒者自主治療協会)に通いながら、日々酒の誘惑と戦っている。

 今回の依頼人はコールガールのキム。この商売から足を洗いたいので、ヒモのチャンスとの間に入って話をつけてほしいというのだ。マットはチャンスに会ってその話をすると、意外にも彼はあっさりキムの願いを受け入れた。

 ところがその直後、キムが何者かによって惨殺される。マットは最初、チャンスの仕業かと疑ったが、彼の方からキムを殺した犯人を捜してくれとマットに依頼してきた……。

【読みどころ】本シリーズの魅力はなんといっても、アルコール中毒から抜け出そうとしているマットが、バーでコーヒーを飲みながらすぐ目の前にある酒への誘惑に必死に抵抗するヒリヒリするような葛藤である。いつマットが酒に手を出してしまうのか、思わず緊張してしまう。酒を飲むシーンはほとんど出てこないのだが、そこにはアルコールの強烈な香りが漂っている。 <石>

(早川書房 1040円+税)

【連載】酒をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 4

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑

  3. 8

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  4. 9

    米国が「サナエノミクス」にNO! 日銀に「利上げするな」と圧力かける高市政権に強力牽制

  5. 10

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性