賠償詐欺の疑いで逮捕された元東電社員の告白

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 2011年8月に成立した、原子力損害賠償支援機構法。東電によれば、2019年7月12日までに、およそ9兆622億円という膨大な賠償金が支払われているという。被害者に損害賠償が行われるのは当然のことだ。しかし、その中には詐欺による支払金も含まれる。

 高木瑞穂著「黒い賠償」(彩図社 1500円+税)は、原発事故に関わる賠償詐欺の深い闇に切り込んだノンフィクション。著者が追ったのは、被害者賠償に真摯に取り組みながら、後に自身も詐欺の片棒を担いだとして逮捕されてしまったひとりの元東電社員である。

 岩崎拓真(仮名・42歳)は原発事故後、東電内に開設された福島原子力補償相談室の賠償係に配属された。仕事は、被害者からの書類受け付けや相談の窓口対応だ。全国からかき集められた1000人近くの社員は当然、交渉術など持ち合わせていない。請求者に怒鳴られ続け、泣きながら「申し訳ありません」と繰り返すしかなかった社員もいたという。

 そんな誰もやりたがらなかった仕事を、岩崎は進んで志願していた。高卒の末端社員として東電社員人生をスタートさせた彼だが、大企業の一員となっていい給料をもらい、親孝行もできた。その恩返しがしたいと考えたのだという。やがて、渉外調査グループで賠償詐欺を暴くポジションに抜擢され、わずか5カ月後には会津若松市で起きた4300万円の詐取も暴くなど、次々に結果を出した。

 しかし、賠償請求に詳しい岩崎を味方につけることで、詐欺を企てようとする人物が忍び寄り……。詐欺の手口のみならず、ずさんな東電の体質や賠償に携わった社員の悲痛な声も明らかにした、渾身(こんしん)のルポである。


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