「売り渡される食の安全」山田正彦氏

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 2018年4月1日、安倍政権は多くの国民が気づかぬまま、とある法律を廃止させた。その法律とは、「種子法」。本書では、TPP反対運動を担ってきた元農林水産大臣の著者が、種子法廃止によって日本の農業と日本人の食に起こり得る、恐ろしい未来を明らかにしている。

「種子法は、米、そして麦や大豆などの主要作物について、優良な種子の安定供給や安全確保を国に義務付けていた非常に大切な法律でした。終戦後、時の政府が“二度と国民を飢えさせてはならない”という強い決意を持って制定した法律を、安倍政権はたやすく廃止したのです」

 そもそも、廃止理由自体、事実を反映していないことが本書には示されている。例えば、“多様なニーズに対応するためにも民間の力を借りる必要がある”という理由。つまり、種子法が民間の進出を妨げているというのだが、種子法は幾度となく改正され、20年以上も前から多くの民間事業者が米の育種事業に参入しているのだ。

「政府は種子法廃止と同時に、日本モンサントの『とねのめぐみ』などの“F1品種”の米を全国に推奨して回っています。F1品種の特徴は、1代限りでしか使えないという点。大量生産にはうってつけですが、2代目以降には品質が受け継がれず、農家は種を毎年購入しなければならない。米の価格高騰にもつながります」

 1代限りの品種が大勢を占める、巨大企業にばかり有利な未来につながる種子法廃止。本書では、安倍政権が次の国会に提出しようとしている「種苗法」改正の闇についても述べられている。

「種苗法改正で、自家増殖の原則禁止、つまり農家が自分の田んぼで採れた種を翌年に使えなくなります。これは、企業から種を買い続けなければならないことを意味し、米の値段だけでなく、安全もそれらの企業に握られることになってしまいます」

 著者は、種子法廃止に始まった一連の影響が、日本人の食を危険にさらすことに警鐘を鳴らしている。

「世界の種子生産の70%は、アメリカのモンサント(バイエル)などのアグリ企業が牛耳っています。これらの企業は化学会社で、種子・農薬・化学肥料をセットで販売することで成長してきました。中でもモンサントは、自社開発の除草剤ラウンドアップ(主成分:グリホサート)に耐性を持たせた遺伝子組み換えの種子を開発して、世界の農業を席巻してきました」

 実は昨年、アメリカで末期の悪性リンパ腫と診断された男性が、原因はラウンドアップにあるとして裁判を起こし、モンサントに2億8920万ドルの支払いを命じる評決が下されている。本書の後半では、このニュースが世界中を駆け巡ったことで、各国で遺伝子組み換え作物の作付け減少と、有機栽培の増加が加速している事実が明らかにされている。

「このニュースを日本のメディアは黙殺。世界の流れに逆走して自国農業と食の安全が破壊されようとしています。“国がそんなことをするわけがない”“どうせ国民の声は届かない”と思う人が多いかもしれません。しかし、政権に対する反撃は地方から始まっています。従来の種子法と変わらない種子条例を制定して政府の暴挙に対抗している道県が、今年7月時点で11にも上っているのです」

 2000年4月に施行された地方分権一括法により、条例は非常に強い権限を持つようになっている。本書の最終章では、米どころの新潟県や、山田錦の6割を生産する兵庫県などによる種子条例制定の歩みや、地域住民の食の安全を守る取り組みがつづられている。

「まずは、政府が何を行ってきたかを知ること。そして、国民にはそれを変える権利と方法があることを、本書を通じて知ってもらいたいですね」

(KADOKAWA 860円+税)

▽やまだ・まさひこ 1942年、長崎県生まれ。早稲田大学法学部卒業。司法試験に合格後、故郷で牧場を経営。その後、衆議院議員に。2010年6月、農林水産大臣に就任。12年、民主党を離党し、反TPP、脱原発などを公約に日本未来の党を結党。著書に「タネはどうなる?!」などがある。

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