「ここでしか味わえない非日常の世界!」ナショナルジオグラフィック編著、大島聡子訳

公開日: 更新日:

 天の配剤としか言えないような自然の風景や、千載一遇の出あい、そして肉眼ではとらえられない驚異の瞬間など、誰もが見ようと思っても、見られるものではない、さまざまな珍しいショットを集めた写真集。

 例えば、米国アリゾナ州フェニックスで撮影された、まるでCGを駆使した映画のワンシーンのような一枚。車が疾駆するハイウエーや明かりがともり始めたビルなど、いつもと変わらぬ夏の夕暮れを過ごす街の背後から、ハバーブと呼ばれる高さ1500メートルもの高さの砂嵐が襲い掛かろうとしている様子が映し出されている。

 また無数の「きのこ」のような物体に埋め尽くされたエストニア・タリンの静かな元波止場。野外アートを撮影したかのようにも見える美しい風景だが、実はこの「きのこ」は、水面に立つ杭にのった氷の冠だという。

 ほかにも、チリ・パタゴニアのヘネラルカレーラ湖のマリンブルーの大理石模様に輝く美しい洞窟や、太古の地球の姿を連想させるインドネシア・東ジャワ州のブロモ山の噴火など、自然によって生み出された美や驚異の世界を切り取った写真が並ぶ。

 一方で、当事者には何でもない日常の営みが、はたから見ると「非日常の世界」に見える時もある。

 バングラデシュで撮影された、森の中に延びるまるで「人間のベルト」のような風景は、何かと思ったら、ラマダン明け、切符が買えなくて危険を冒して汽車の屋根に乗って故郷を目指す人々だった。

 表紙のカラフルな男たちは、インドのヒンズー教の伝統的な春の祭り「ホーリー祭」で、ショッキングピンクをはじめ、カラフルな色の粉をお互いに掛け合っているところ。普段はいかつい男たちがメルヘンの登場人物になってしまっている。

 かと思えば、空撮した人々の姿を切り抜き、真っ白な砂浜に並べるとともに、防風林を髪に見立て、美しい女性のシルエットを浮かび上がらせた日本発の作品や、「インドシナウオータードラゴン」という美しいシルエットのトカゲが自慢のモヒカンと見事にコラボレーションしたロンドン女性など、アート系の非日常写真もある。

 水族館のベルーガが遊びで吐き出したバブルリング(日本)や、防御の姿勢なのだそうだが、音楽に合わせて踊っているようにしか見えないポップな色合いの2匹のカマキリ(キプロス)など、生き物たちのつくり出す「非日常」もある。

 いずれも、それぞれのカメラマンたちがシャッターチャンスを求め、時に気の遠くなるような時間を待ち続けた末に撮影に成功した作品や、偶然その場に居合わせることができたことによって撮影された運命の出あいともいうべき一枚ばかり。

 眺めていると、仕事などの「日常生活」に疲れた頭が「非日常」に出あうことで、すっきりとリフレッシュされる。

(日経ナショナルジオグラフィック社 2500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  2. 2

    萩生田光一氏「石破おろし」がトーンダウン…自民裏金事件めぐり、特捜部が政策秘書を略式起訴へ

  3. 3

    参政党は言行一致の政党だった!「多夫多妻」の提唱通り、党内は不倫やら略奪婚が花盛り

  4. 4

    【夏の甲子園】初戦で「勝つ高校」「負ける高校」完全予想…今夏は好カード目白押しの大混戦

  5. 5

    早場米シーズン到来、例年にない高値…では今年のコメ相場はどうなる?

  1. 6

    落合博満さんと初キャンプでまさかの相部屋、すこぶる憂鬱だった1カ月間の一部始終

  2. 7

    打者にとって藤浪晋太郎ほど嫌な投手はいない。本人はもちろん、ベンチがそう割り切れるか

  3. 8

    伊東市長「続投表明」で大炎上!そして学歴詐称疑惑は「カイロ大卒」の小池都知事にも“飛び火”

  4. 9

    “芸能界のドン”逝去で変わりゆく業界勢力図…取り巻きや御用マスコミが消えた後に現れるモノ

  5. 10

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も