著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「新蔵唐行き」志水辰夫著

公開日: 更新日:

 岩船新蔵、ふたたびの登場である。前作「疾れ、新蔵」では、10歳の志保姫を国に届けるために旅に出たが(その途中で、駕籠かき2人、継ぎはぎだらけのぼろを着た若い娘、さらに彼女の連れたイノシシが合流して5人と1匹の旅になるところがケッサクだった)、今度はスケールがでかい。

 新蔵は新潟の廻船問屋三国屋の手代として暮らしているが、乗った船が行方不明となった主家の若主人を捜すため長崎に行くのだ。さらに、父親に会いに行く若い娘を連れて唐に渡っていく。鉄芯入りの木刀を持って。

 この木刀は、武者修行していた武芸者から、新蔵が13歳のときにもらったものである。山中で一心不乱に木刀を振っている男に「弟子にしてください」と頼み込み、1カ月だけ教えてもらったのだが、別れ際に師匠が鉄芯入りのその木刀をくれた。それ以来、いつも新蔵は木刀を離さない。

 唐への旅に同行するのはもうひとり、得体の知れない藤若だ。悪党なので油断できないが憎めないところもある。こういうキャラクターを著者は好きなようで、前作に登場した駕籠かきの政吉と銀治に通底するものがある。

 半分強のところでロードノベルとしてのゴールを迎えてしまうので、おや、どうなるんだろうと思っていると、新蔵はそこから修羅の世界の争いに巻き込まれていく。阿片戦争の真っ最中という時代を背景にした時代小説だが、志水辰夫はやっぱりいい。

(双葉社 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    名球会入り条件「200勝投手」は絶滅危機…巨人・田中将大でもプロ19年で四苦八苦

  2. 2

    永野芽郁に貼られた「悪女」のレッテル…共演者キラー超えて、今後は“共演NG”続出不可避

  3. 3

    落合監督は投手起用に一切ノータッチ。全面的に任せられたオレはやりがいと緊張感があった

  4. 4

    07年日本S、落合監督とオレが完全試合継続中の山井を八回で降板させた本当の理由(上)

  5. 5

    巨人キャベッジが“舐めプ”から一転…阿部監督ブチギレで襟を正した本当の理由

  1. 6

    今思えばあの時から…落合博満さんが“秘密主義”になったワケ

  2. 7

    巨人・田中将大が好投しても勝てないワケ…“天敵”がズバリ指摘「全然悪くない。ただ…」

  3. 8

    高市早苗氏が必死のイメチェン!「裏金議員隠し」と「ほんわかメーク」で打倒進次郎氏にメラメラ

  4. 9

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性

  5. 10

    三角関係報道で蘇った坂口健太郎の"超マメ男"ぶり 永野芽郁を虜…高畑充希の誕生日に手渡した大きな花束