「人生の地獄の乗り越え方ムネオを救った30の言葉」鈴木宗男著/宝島社/2020年

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 2002年に鈴木宗男氏(当時、衆議院議員)は、収賄容疑で「鬼の特捜」(東京地方検察庁特別捜査部)によって逮捕、起訴された。鈴木事件まで、「鬼の特捜」に逮捕されると政治生命に終止符を打たれた。しかし、鈴木氏は甦り、去年7月の参議院議員選挙で当選し、現在、縦横無尽の活動をしている。

 本書には逆境をどう乗り切るかについての知恵が多々盛り込まれている。特に興味深かったのが、刑務所に収監されていたときに読んだ本についてだ。

<服役期間には100冊を超える著書を読んだ。/これまで一心不乱に走り続けてきた人間が、いったん自分自身の人生を止めたとき、どんな本を読みたいと思うのか。/(中略)なかでも印象深かったのは、ノーベル賞作家のアレクサンドル・ソルジェニーツィンの名作『イワン・デニーソヴィチの一日』だ。/(中略)スターリンの弾圧により、シベリアでの強制収容所で過酷な作業に従事する主人公のイワン・デニーソヴィチ。彼は「神の思召し」を信じ、この生活が終わる日がやってくるまで、どんなことがあっても耐え抜こうと決意する。/普通の生活をしていたときの私であれば、そんな物語に心を打たれることはなかったかもしれない。/だが、拘置所での生活を経験し、さらに刑務所に入っていた当時の私にとって、主人公の生きざまと心象風景は、圧倒的なリアリティをもって心に染みわたった。/「命までは取られない。私はまだ恵まれている」>

 実は鈴木氏に「イワン・デニーソヴィチの一日」を差し入れたのは評者だ。鈴木宗男事件に連座し、「鬼の特捜」に逮捕され、東京拘置所の独房に512日間、勾留されたときに評者は、「これでもスターリン時代の強制収容所よりはましだ。命まで持っていかれることはない。生きていれば道は必ず開ける」と考えた。

 獄中経験は、人生に大きな影響を与える。鈴木氏や評者の場合、獄中生活の期間に新たなエネルギーを蓄えることができた。読書は獄中での重要なエネルギー源になる。しかし、あの閉鎖空間の中で、未来に対する希望を失ってしまう人の方がはるかに多いのだと思う。  ★★★(選者・佐藤優)

 (2020年2月8日脱稿)

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